第11話:王都アルカディア

 そしてそれから二日間、王都に向かう道中で二つほどの町に寄りながらもなんとか王都に辿り着くことが出来た。

 馬車の窓から見てみたが、王都はゲームで立ち寄った時と全く変わらない場所で、実際に此処に来たという事実に心が躍る。

 

「ルクス君、もう王都だけどよければグレイシス家に寄ってかないかい? 旦那様達も君の事を気に入ると思うよ」


 ここ数日でかなり仲良くなったエイルさんにそう言われたが、俺としてはもうノアの試験が始まるかもしれないから飛竜の谷に向かいたかった。

 でも、その前に気になる事があったので情報収集のために今はその旦那様……後のボスであるリュート・グレイシスに会うことに俺は決めた。

 あと行く理由としては……さっきからリアの視線が痛いからである。


「そうですね寄らせて貰います」

「きっと旦那様達も喜ぶだろう。それに君は魔法が好きだろう? グレイシス家の書庫には色んな本があるよ」

「行かせて貰います!」


 チョロい?

 ……そんな事は言われても困る。だって魔法の本がいっぱいだぞ? テンションが上がるに決まってる。それに俺には情報収集するという使命がある。

 師匠曰く、試験は俺が孤児院から出た日から五日後らしいし猶予はあと三日ある。だから少しの寄り道ぐらいは許されるだろう。


「そうかいじゃあ早速向かうよ、少し揺れるから気を付けるんだ」


 そう言って再び馬車の御者席に戻り再び馬車を動かし始めた。

 俺も俺で馬車の中に戻り再びリアと会話することにした。まぁ話す事といっても孤児院のこととか魔法の事ぐらいしか出来ないけど。


「ねえ……ルクス君、そのノアって子と仲良いの?」

「アイツと? ……仲はいいと思うけど、俺の事下僕かなんかだと思ってる気がするんだよな」


 だって暇さえあれば俺を誘ってくるし、時々パシりにしてくるし……何より断ると怒るし。 


「……女の子?」

「いや、男だよ? 兄弟同然に育ってるし多分間違ってないと思うけど……それにノアは男っぽすぎるし、女なわけないって」

「…………よかった。そうだなんでルクス君は王都に来たの?」

「あの馬鹿がアルステラ学園の試験を受けに来たらしいから見に来たんだよ。心配だしね」


 嘘は言ってない。

 手助けするために試験会場である飛竜の谷に突撃するという事は流石に言えないから、こういう建前で乗り切るのがいいだろう。

 

「ノアって英雄候補の子なんだ……凄いね、そんな家族がいるなんて」

「まぁ、あいつ英雄とかいう柄じゃないけどね」


 勇者だということは知っているがやっぱりアイツの印象はバーサーカーだ。

 だって、勇者ってもっと聖人的なやつでしょ? ないない、かけ離れてるって……まあ将来は英雄候補じゃなくてマジモンの英雄になるんだけどさ。

 やっぱりイメージないんだよなぁ。


「そうなの?」

「そうだよ、だって彼奴基本的に考えが遊ぶ遊ぶ遊ぶだよ? 世界救うとか英雄ーとかじゃなくて平和に過ごした方がいいと思うんだよね」


 ……魔王との戦いはかなり酷い。


 この世界が意外とブラックという事もあるが、一つの村が毒に侵され潰れるという描写もあるのだ。優しい彼奴がそんなの見たらどうなるか分からないし、正直言えば平和が一番。原作を知っているから回避は出来ないと知っていても、子供の頃は平和に過ごして欲しい。


 本当はノアの奴にそれを伝えたいが、あいつの試練を受けるっていう覚悟を無下にするなんて出来ないから今回は手助けするという方法をとることにしたんだ。


「ルクス君は……本当にその子の事大切なんだね」


 大切? 

 ……そう言われるとそうかもしれないが、それを自覚するのは恥ずかしいな。


「まあ……家族だしね」

「いいねそういう関係」


 それからちょっと恥ずかしくなってしまったので、グレイシス家の屋敷に着くまで会話が上手く出来なくなってしまった。

 そして会話出来ないまま屋敷に案内され、俺はこの屋敷の主であるリュート・グレイシスに挨拶することになったのだが……。


「娘を助けて貰って感謝する」


 開幕一番そう言われ流れるように何故かこの屋敷に泊まることになり……その日の夕食に誘われた。時間が飛んだ感覚に襲われながらも、貴族の食事を楽しみにしてたのだが……何故かリュートさんとリアとの三人で食事することになったのだ。


「娘から聞いたが、英雄候補の試練を見に来たのであろう?」

「……何か不味かったですか?」

「いや、むしろ家族のために一人王都に来た事に感心している」

「ありがとうございます?」


 原作知識で口下手だと知っていたが、単刀直入にモノを言い過ぎじゃないかこの人? コミュニケーション難しいんだけど。

 いやでも大丈夫だ。

 原作での地雷を知っている俺ならばなんなく切り抜けることが出来る。

 ……ってそれは置いといてなんで二対一で食事する事になったの? もうちょっとこの家には人がいたよね? リュートさんの奥さんとかリアの姉三人とか。 


「リア……助かったのはいいが、グレイシス家の者が魔物程度倒せなくてどうする? 帰って早々だが明日は授業を厳しくする」

「はい……お父様」

「それと食事が終わったら自習だ。新しい魔法の教材は部屋に置いておいた」


 ……この父親、原作と随分イメージが違うな。

 不器用ながらに娘を溺愛する人だったけど、今の所冷たいイメージしかない。

 それに、娘が助かったのに無事だったの一言もないのか? 

 今のやり取りを聞いて、気付けば俺は拳を握っていた……せっかく出来た友達の扱いに腹が立ったからだ。


「そして、君は少し残れ話がある」

「……話ですか?」


 苛立っている時にそう言われ、睨んでしまったが……気にした様子はないようだ。

 何の話だろうか……今の所この人にいい印象は持てないが、断る理由も無いし残ってみるか……とそう思ったのだが、それは間違いであった。


「時にリアの事をどう思っている?」

「えっと、友達ですが」

「そうか……本当だな?」

「本当ですけど……」 


 どういう質問だ?

 俺は一体何を試されているんだ?

 そう思った瞬間の事だった。急に部屋に冷気が溢れ始めて今は暖かい時期なのに風邪引きそうな程にこの部屋が冷え始めたのだ。


「リアは可愛い。とても可愛いんだ……それを友達? いや絶対嘘であろう、下心がある筈だ。言うんだ白状しろ、我が娘の事をどう思っている?」


 それどころか、俺の周りに氷で出来た剣が舞っているし何だこの状況。

 というか、今気付いたけどこの人食事中に水のようにワインを飲んでたのを見たけどさ、顔が赤いよね。もしかしてめっちゃ酔ってる?


「それにだ……あの子はあの子で昔から物語が好きな子であった。買い与えた時なんてお父様ありがとうと満面の笑みで言ったほどだ……だから英雄に憧れるのは分かる……だが、一度助けただけの貴様にあそこまで気を許すとは思えん。何をしたんだ? 言ってみろ」


 何もしてないんだけど? 

 え、何この人……キャラ変わった? 何か地雷踏んだ? 俺めっちゃ気を付けてたはずなのに……。


 凄い早口で色々伝えてくるリュートさん。

 その様子からはさっきの冷た印象は一切なく、むしろただの親馬鹿――。


「返答によっては……」

「はーい! うちの馬鹿がごめんなさいねー」


 氷の剣先が俺に全て向いた瞬間の事だった。

 部屋の扉が勢いよく開き、見知らぬ女性が現れリュートさんの頭に巨大なハンマーを叩きつけ意識を刈り取ったのだ。


「ごめんねールクス君。このド阿呆には言い聞かせるから今日はゆっくり休んで欲しいわー」

「あ、はい!」


 台風は過ぎ去った後のようにリュートさんの首根っこを掴んで何処かにいた謎の女性。一体何が? と思いながらも、凄く頭が痛かった俺は聞きたい事は明日聞こうと決めて、メイドさんに案内され豪華な部屋で一泊した。

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