第10話:リアという少女

 氷雪のリア。

 それは『アルカディア・ファンタジー』の主人公がアルステラ学園で最初に出会う仲間であり、この作品のヒロインの一人。


 最初は冷たいキャラだったがノアと関わる内に絆されていったのかどんどん明るくなっていき、最終的には作品屈指のヒロインへと成長した少女である。


 氷の魔法を得意とし、その力で何度も仲間達の危機を救った立役者、そして何より前世……というより転生前の俺が一番感情移入していたキャラでもあり、ノアを庇った時なんて放心したのを覚えている。


 そんな彼女が目の前にいるという事で俺はどうしていいか分からなかった。 

 とりあえず不審がられないように自己紹介はしたけど、それ以降何を話していいか分からない。


「ルクス君は、魔法使えるん……だよね?」

「……一応使えるよ? まだあんまり強い魔法は使えないけど」

「凄いな……わたし、氷属性の適性はあるけど……全く使えない、から」

「リアも凄いじゃん、氷属性って珍しいでしょ」

「えへへ、ありがとう……でも、わたしは凄くないよ」


 なんでだ? 

 彼女は初登場時からかなり強い魔法使いとして描写されていたし、何より彼女の強さを知ってる俺からするとめっちゃ凄いキャラなのだ。それに彼女冷たいけどかなりの自信家だったし。


 だから凄くないという言葉に違和感を覚えてしまった。

 

「使える魔法まだ一個しかないもん……それに、全然戦いに使えないし」


 リアの初期の魔法とか作中で明かされなかったし、めっちゃ見たいんだけど……だって最初の魔法というのはその人の個性が表れるモノ。既存の魔法を覚えるのにもその人にあったものじゃないと覚えられないし、何より個人の魔法の起源と言ってもいいからだ。


 魔法使いは最初に覚えた魔法を発展させていくのが基本と師匠は言ってたし、彼女の魔法の数々を覚えている俺からすると何が何でも見てみたい。


「よかったらでいいんだけど見せてくれないかい?」

「え、でも……何にも使えないよ?」

「ううん、俺が見たいんだ。俺も魔法見せるからさ……嫌だったらいいんだけど」

「…………がっかりしないでね」


 それはいいって事でいいのか?

 ちょっと強引だった自覚はあるけど、見たい欲が抑えられなかった俺はその言葉を聞いて喜んだ。


「じゃあいくね――咲いて、氷華ひょうか


 彼女が言葉に魔力を込めたのが分かった。 

 そして氷華と唱えると空中に氷の華が咲いたのだ。 

 透明な氷で出来た蓮の花……それは初めて見る魔法でありとても綺麗だった。

 あの魔法大好きな師匠の元で一ヶ月以上過ごし、何より元々魔法好きだった俺がそれを見て興奮しないわけがなく……。


「え、凄い! めっちゃ綺麗じゃん! しかも詠唱魔法でしょ? 俺まだ使えないのに!」


 気付けば目の前の彼女の手を取って柄にもなく俺は滅茶苦茶褒めた。

 詠唱魔法とは魔法により強い形を与えるかなり技術がいる魔法技術だ。

 基本は頭で展開する魔法をより強力にするための技であり、使うのには言葉にすら魔力を込めなきゃいけないからかなり難しいんだけど、この子はそれを難なくやったのだ。


「……あ、あの手」

「あ――ごめん、興奮しちゃって」

「大丈夫だけど、恥ずかしい」


 あれ、俺今大貴族の娘の手を無断で取った?


 …………あれ、不味くない? この子の家族超絶過保護だから男の影があるとバーサークするんだよ? ノアが原作で彼女を連れて旅に出る挨拶をしに行くイベントでこの子のお父さんがボスとして降臨したのを覚えてるけど、かなり強かった気が……。


「今の事はどうか内緒でお願いします」

「え、あ、うん分かった」

「それより本当に綺麗だねこの魔法、氷の華とかお洒落だし」

「で、でも使えないって皆が」

「え、馬鹿じゃんそいつら。使い勝手だけ考えるとか……魔法はロマンなのに」


 そう魔法はロマンなのだ。

 確かに威力や格好良さは大事……だけど、魔法というのは人や異種族の生活を豊かにし楽しさを与えてくれるモノ――そして、何よりロマンを求め続けるモノなのだ。

 こんなにも綺麗な魔法を使えないとか言うなんて頭涌いてるって。


 きっと成長すれば氷の花畑とか見れるだろうし、そんな幻想的な光景見てみたいに決まっている。


「本当に凄いよリア、めっちゃいい魔法じゃん」

「でも皆は……」

「その皆っていうのが誰かは分かんないけどさ、俺は本当に凄いと思う。だって魔法は嘘をつかないから」

「……どういう事?」

「魔法っていうのはその人の思いや努力が詰まってるでしょ? この魔法凄い練度だし、何より誰かを傷つけたくないってのが分かるんだ。こんなのいい魔法っていう他ないでしょ!」 


 なんかめっちゃ恥ずかしいことを言っている気がするが、これは俺の本心だ。

 この魔法は本当に凄い、今は魔王が復活していない時代だし、魔物がいるとはいえ戦闘力だけを求め続けるなんて間違っている。


 だからこそこうやって綺麗な魔法があっていいだろうし、魔物を倒す力そして戦争で勝つ力とされているが、誰かを傷つけない魔法っていうの本当にいい考えだから。


「はじめて……そんな事言われた」

「俺の師匠もリアの魔法見たら絶対同じ事言うと思うな。だってそれだけ凄いんだから」

「ありがと、ルクス君……ちょっと自信、ついたかも」

「ちょっとじゃなくてもっと自信持ってもいいと思うけどね。あ、忘れてた次は俺の魔法を見せる番じゃん」


 さっき魔法を見せるといったが、よくよく考えれば俺の魔法って殺傷能力高すぎるモノばかりだし、こんな狭い馬車の中で使う物じゃないよなぁ。

 いや待てよ、こういう時こそあれがあるじゃないか。


「見ててねリア、魔法のお手玉」


 そうやって俺は風神弾をいくつか作ってそれでお手玉を始めた。

 最大六個まで出来るこのお手玉、師匠に鍛えられて出来るようになったけど……まさかこんな場所で使う事になるとは思わなかったな。


「ふふふ、面白いねその魔法」

「本当は攻撃魔法なんだけどね、使い方次第ではこういう事も出来るんだよ」

「…………本当に、ありがとうルクス君」


 何の感謝か分からないけど、素直に受け取ることにして俺は王都への道中を楽しむことにした。

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