第9話:修行の成果

 数が多いけど、ゴブリンとオークは序盤の魔物だ。

 それも序盤に探索する魔獣の森にいる雑魚敵の筈……だけどこうやって初めて数を相手にすると……。


 ゴブリンの手には木で出来た棍棒、そしてオークの手には人を簡単に断ち切れそうな肉切り包丁が握られている。

 どっちも当たったらただじゃ済まないだろう得物であり、気を抜けば数で攻められてやられてしまう。


 護衛の人達を合わせればこっちの人数は四人……数的不利だし、何よりかなり疲弊しているだろう。

 それは地面に放置されている六匹の魔物の死体を見るに明らかだし、むしろ十六対三でよく持ったとすら思えてくる。


 考えなしに突撃したけどかなり不利な状況だ。

 だけど、俺だって師匠に鍛えて貰ってる。こんな雑魚達に負けたらあの人に合わせる顔がない。


「ぐがぁ!」


 ゴブリン四体が俺に向かって突撃してくる。

 どうやら疲弊している護衛より、オークを一匹を倒した俺に狙いを定めたようだ。

 だけどそうやって一緒にくるなら俺にも考えがある。


「――最大出力、風渦!」

 

 攻めてきた奴らにあわせて風の刃を集めて相手を同時に切り刻む。

 警戒してなかったゴブリン達は仲良く一緒に細切れになりその命を散らした。

 こんなに弱いっけ? そう思いながらも俺は次の標的に狙い話あわせて杖剣を構えて鞘を外した。


「怯んだら負けだよ、君たちの強みは数の多さで攻めることなんだから」


 次のゴブリンを倒し、残るはオーク三匹とゴブリン二匹となった……と思ったんだけど、ゴブリンは護衛の人達が倒したようで残るはオーク三匹に。

 明らかにこっちを警戒しているのか、近付く様子のないオーク達。

 少しずつ後ずさり逃げようとしているのか、今は戦意を感じない。


「――どうしますか、逃がします?」

「……いや、逃がして他の者が被害に遭ったら大変だ。ここは倒すしかない」

「了解です」


 そう決まったので俺は魔力を刃に流して切れ味を強化した。

 オークの肉は硬くかなり刃が通りにくいことは授業で習っており、オークと対峙したらそうしろと師匠に言われていたからだ。


 魔法で相手してもいいが、風渦は相性が悪いだろうし、風神弾は警戒されているだろう。だからここは剣だけで倒す。

 そう意気込んで俺はオーク達に突撃した。



「終わりましたね、大丈夫ですか?」

「あぁ、だけど君はどうなんだ? かなり強力な魔法を使っていたようだが、疲れていないのか?」

「全然、あれくらいならまだ数十発は使えます」


 嘘ではない。

 師匠との修行で一日に五十発は風神弾を使えるようにされたんだ。

 挙げ句の果てにお手玉まで出来るようになったけど、絶対に使う場面来ないよね。

 これ魔法で大道芸でもしろって事なのかな?


「凄いな……それより、君は何でこんな場所にいるんだい?」

「えっと王都に向かう予定だったんですが、馬車がなかったので歩いてたんです。近くの町なら馬車があるかなと思ったんで。で、偶然襲われている貴方たちを見つけました」

「そうかい、偶然でも助かったよ。そうだお礼といってはなんだが、よければ王都まで送ってあげようか? この馬車は王都に向かってる途中でね」


 え、何その偶然。

 それに運がいい。

 正直、時間的にも次の町にも馬車がなかったかもしれないし、乗せてくれるならありがたい。それに一応護衛がいるなら安全だし……。


「ならお願いします。えっとなんて呼べば?」

「俺はエイルという。短い間だがよろしく頼むよ」

「じゃあよろしくですエイルさん、俺はルクスです」

「ルクス君か、ちょっと待っててくれお嬢様に乗せていいか聞いてくるから」


 あ、分かってたけど許可はまだ取ってないんだね。

 まあ乗せて貰えなくても道分からないし、着いていくぐらいはさせて貰いたいな。

 それから待つ事数分、戻ってきたエイルさんが嬉しそうに伝えてくる。


「乗せていいらしい、むしろ話したいそうだ。どうだい乗ってくれるかい?」

「なら甘えさせて貰います」


 そうやって馬車に乗り中にいる人に挨拶することにした。

 お嬢様と言われていたが、よくイメージできるファンタジーの貴族とかだったら嫌だなぁと思いつつ顔を見て俺は固まった。


「あ、あの初め……まして。リア……っていいます」

「初め……まして?」


 そこにいたのは薄い水色の髪をした将来は絶対に美少女になるだろう子供。

 おどおどとしたその様子は記憶にある彼女の姿とはかけ離れていたけど、過去回想であった姿と一致していた。


 氷雪のリア。

 後に主人公であるノアと旅を共にするネームドキャラの一角がそこにはいた。

 こんな場所で会う予定も、そもそも会えるはずのない大貴族の少女……そんな彼女と出会った俺は思考回路が凍り付いた。


 だけど、そんな凍り付く俺とは対称的に何故か顔が真っ赤な彼女。

 初めて感じる視線に襲われながらも俺は、どうしても冷や汗を押さえられなかった――だってこのキャラは、この先の未来でノアを庇い死んでしまうのだから。


――――――

――――

――



 その日、私は物語の主人公みたいな人に出会った。

 魔物に襲われていた私達を救ってくれた魔法使いだ。

 その人は、すぐにゴブリンを倒し自分より巨大なオークまでも倒したのだ。


 馬車からみていたけど、その姿は格好良くて自分が助けられるヒロインみたいに思えてしまった。

 あのままだったら死んでいた私を救ってくれた恩人。

 今は一緒に馬車に乗っているけど、ちゃんとお話しできるかな?


 人付き合いが苦手な私だけど、なんとかしてお話しできるといいな。

 そんな事を考えながら私は固まる彼に声をかけることにした。

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