第8話:幼馴染みの旅立ち


「さぁて、ルクス君。今日は剣を教えるよ!」


 一ヶ月の間魔法の修行を続けていると、急に師匠がそんな事をいいだした。

 剣? これまで通り魔法の勉強してたいんだけど……とその意志を伝えてみたものの師匠はこう言った。


「この一ヶ月で分かったけど、君は馬鹿みたいな量の魔力を持ってる……だけどね、結局はなくなってしまえば動けなくなるだろう? だからだよ」

「理にかなってるけど……剣苦手なんだよ」

「ぶっちゃけたねぇ、まあそこは大丈夫私がいるからね! 信用できないかい?」

「その言い方はずるい」


 この一ヶ月で性格以外は信用できる様になったところでそう言ってくるのはずるい。本当にこの人は優秀で彼女のおかげで風神弾も風渦も完成したし、今更信用できないなんて言えないのだ。


「じゃあ納得してくれたという事で早速やろうか」

「って言われても武器ないじゃん」

「おっとそうだったね私としたことが忘れてたよ」


 わざとらしく笑う師匠に楽しそうだなぁという感想を抱く。

 この一ヶ月で師匠の事がかなり分かったけど、この人は俺といるときは本当に楽しそうだ。一回買い出しで師匠と一緒に町に行った時とか塩対応というかもはや氷と言っていい態度で他人と接していてあまりの態度の違いに別人かと思ってしまったのを覚えている。


「ということではいこれ、私特製の剣だよ」

「これ……剣なの?」

「剣だとも……まぁちょっと細工はしてるけど」


 渡されたのは変哲のない杖。

 持ち手の部分の先端に宝石が埋め込まれていてどうみても魔法の杖だった。


「これは杖剣……魔法の触媒にもなる私が創った武器だよ。まあ桜月の仕込み刀を参考にした武器なんだけどね。下が鞘になってて取れば刀身が出るよ」

「あ、本当だ。まじで剣なんだこれ」

「それとこの杖は生きているんだ! 君専用に作った君と共にある特別な武器。弟子になって一ヶ月記念のプレゼントさ!」


 生きてる武器ってどういう事だろうとおもったけど、師匠のプレゼントだし凄いのは確かだろう。それを貰った俺は大切にしようと決め名前でも考えようかと思ったけど、今は剣の修行をするそうなので後回しにする事にした。


「じゃあ早速始めるよ。好きにかかってきてね」


 あ、そんな感じで始まるんだ。

 まあ一応、ノアと鍛錬してるし……そこまで無様にはやられないはず。

 それにこの人物理方面めっちゃ弱いし、大丈夫でしょ――とか考えながらかかっていった数十秒後俺はいとも簡単に地面に倒され無様な姿を晒したのであった。

 それどころかそれは俺が気絶するまで続き――。


――――――

――――

――



 疲れて気絶した弟子を抱え、私はリリアのやってる孤児院にやってきた。

 転移先を彼の部屋に登録しているから別に直接入ってもいいのだけど前にそうしたら怒られたから入り口からちゃんと入る事にする。


 肩に抱えながら入った途端に、リリアがジト目で睨んできたけど……今回に限っては私が調子乗ってしまったのが悪いのでその視線を不本意だけど受け入れた。

 まさか私にあそこまで食いついてくるなんて思ってなかったぞ? 

 何が剣が苦手だよ普通に強くてビックリしたんだけど。

 そんな事を考えながら歩いていると、銀髪の子供と遭遇する。


「オマエ、ルクスに何した?」

「おや、英雄候補様じゃないか。なぁにただ一緒にいただけだよ」

「それでそんなボロボロになるわけないだろ」


 わぁ怖い。

 こいつ嫌いなんだよね、子供っぽくないのは別にいいとしてなんか無性に腹が立つ。まあこいつも私の事嫌いだろうし、好かれる必要とか一切ないんだけどね。


「修行だよ。どうしても強くなりたいってこの子がいったからね師匠として頑張ってるだけさ」

「強くなるならオレがいるのに」

「そうかい? でも、選ばれたのは私だよ」

「……ずるい」

「悔しがれ悔しがれー」


 まあ理由が理由だからそこまでマウント取れないけど。まあ今は私の時間だからいいもんねー。

 大人げないとかリリアに言われそうだけど、そんな事は天才は気にしないのだ。

 なんでって? そりゃ勿論弟子といるのが楽しいからさ!


「で、話は変わるけど試験の準備は出来てるのかい? 最近リリアに修行付けて貰ってるんだろう?」

「オマエには関係ないだろ」

「一応私は迎えに来た立場だからね、関係はあるさ」

「……分かってるよ。だけど約束通りこの孤児院には手を出すなよ」


 私を睨み子供とは思えない殺意をこっちに注いでくる。

 この件殆ど関わりないけど、これ迎えに来たせいでとばっちり受けてるよね私。

 まぁ? この程度の殺気とかお粗末すぎて笑いたくなるけど、そしたら拗れるって私でも分かるからここはミステリアスなお姉さん風に遊んじゃおっかな。


「分かってるって……まあ、あと一ヶ月頑張ってくれたまえよ」

 

 何が起こってるかは分かってるし、弟子に免じて首謀者でも遊ぶつもり。それとルクスのことを考えるとこれに関わってるモノ達は邪魔だしね、暇つぶしついでにちょっとお姉さんは頑張るけど。


「言われなくても――それとルクスに手を出したら潰す」

「まぁ怖い――そんな怖い君に免じて今日は帰ろうじゃないか、ルクスの事は任せたよ」


 それだけ伝えて私はルクスを部屋に寝かせてリリアにちょっかいをかけに行く事にした。


――

――――

――――――


「じゃあ行ってくるぜ皆」


 その日は唐突に訪れた。

 なにやら試験の日が早まったとかなんとかで師匠がノアを連れて王都に行くことになったのだ。元の予定より二週間は早く、あまりにも急な事だったので驚いてしまった。


「うぅ、もうちょっと弟子といたいのにー」

「うるさいぞメルリ、お前はノアを無事に送り届ける事だけ考えろ」

「分かってるよー。そこはメルリお姉さんを信用してくれたまえ」

「いやそこは心配していない、私が心配なのはお前がちょっかいかけないかだ」

「え、そこなの? でも私は子供に優しいって評判じゃないか……ほらほら孤児院の子に魔法を見せてあげてたし」

「……確かにお前がいた期間はあの子らは楽しそうにしてたが……」


 そういえばだけど驚いた事があったのだ。

 他人に興味ないと思っていたメルリ師匠は子供には意外と優しく孤児院の家族達に魔法をせがまれるとすぐに色んな魔法を見せるという事をしていた。

 だからか皆からの評価は意外と高く、メルリお姉ちゃんと慕う子供もいる。


「ほら心配ないだろう?」

「……任せるぞ。ブラッドウルフ程度にノアが負けると思わぬが約束通り危なくなったらお前が守れよ。それに最近は王都までの道に魔物が出ると聞く、お前なら心配ないと思うが」

「はいはい分かってるよ、ちゃんと守るって」


 やっぱりこの孤児院にはブラッドウルフで伝わってるんだ。

 まあそうか、ワイバーンの住処にノアを送るってなったら絶対にリリアさんは反対するし……いや、それどころか首謀者全員埋められそう。


 あと今更だけど、王都ではどういう風に伝わってるんだろう?

 師匠から前に聞いたけど、王都ではそういう催しなどは告知がされるって聞いたし、英雄候補のワイバーン討伐って内容が出回っているはずだ。


 こっちには届いてないが情報規制とかされてるのか?


「じゃあまたねルクス、寂しくなったら呼べば私は来るからね」

「しばらくはいいかな」


 その時はお願いします。

 

「ねぇ今本音で喋らなかった?」

「すいません、授業を思い出して本音が……」

「うぅ、愛弟子に嫌われたぁ。メルリさんショックだよ、これじゃあ連れて行けないなー」

「嫌いじゃないから行ってくれない?」

「え、好きってこと?」


 もうそれでいいや。

 やっぱり少し面倒くさい師匠の言葉に肯定も否定もしないことにして、とりあえずノアに挨拶する。


「ノア、絶対帰って来てね。危なくなったら師匠を盾にしていいから」

「うん、わかった。帰ってきたらまた遊ぼうなルクス!」

「了解、約束だよ」

「あれー、なんか私盾になること決まってるの?」

「うるさいぞメルリ、今は黙れ」

「当たりが強いのなんで?」


 そりゃ師匠だから?

 そう思ったが、口にしたらさらに面倒くさくなるので口を閉じノア達を見送ることにした。

 そしてその夜の事、俺はこっそり孤児院を抜け出し近くの森にやってきていた。


「確かこの森に師匠が馬? を用意してくれるって言ってたけど」


 明日いない事がバレるのは分かってる。 

 だけど、ノアを手助けするためには俺も王都にいかなければいけない。

 だから俺は師匠に馬を用意して貰い、それで向かう事になってたんだけど……森の奥に行ってみればいたのは、馬とはほど遠いとても綺麗な黒い狐だった。


「えぇ、馬って言ってたじゃん」

 

 師匠の事だから一ひねりぐらいしてくるなぁとは思っていたけど……せめて馬であろうよ。というか、あの狐に乗るのは無理じゃない? かなり小さいけどどうやって乗らせるつもりだったの?


 その狐は俺が森の奥に足を踏み入れた瞬間にこっちに気付いたのか、近寄ってきて手紙を渡してきた。


「あ、師匠の字だ。なんて書いてるんだろ」


[私の愛しい弟子であるルクス君へ、馬を用意しようとしたけど私って昔から動物に嫌われるんだよね。そのせいで一匹も用意できなかったから代わりにその子を預けるね。まだ生まれて二ヶ月も経ってない子供だけど結構賢いから役に立つとは思うよ。あ……お金を預けておくから馬車でも雇ってねby貴方のメルリお姉ちゃんより]


「そういうことなら馬用意できないって伝えてよ……とにかく、よろしくでいいのかな?」


 流石にこの森に置いていく事なんて出来ないからそう聞いて見たら、本当に賢いのか俺に答えるように首を縦に振った。


 でもどうやって連れてこう?

 後ろにいて貰うのは小さいから悪い気がするし……とか考えていれば器用に俺の体を駆け上り頭の上に乗ってきた。

 しかもそこを気に入ったのか気持ちよさそうに鳴き声を上げた。

 

「それでいいんだ。まあ気に入ったならいいけどさ……よしじゃあ出発だ」


 森から出れば近くには町がある。

 そこで王都に向かう馬車でも探せばいいかな?

 そう思って森から出たんだけど……着いた村では馬車がもうないみたいで早速出鼻を挫かれた。


「え、どうしよう。間に合わないと不味いんだけど……とりあえず走って近くの町でも目指さなきゃ」


 疲れるけど今は時間がないし、馬車に乗らなきゃ間に合わないかもしれない。だから俺は、かなり急ぎ足で次の町に向かう事にした。

 そしてその道中のこと……途中の道で止まっている馬車を見つけたのだ。

 運がいいと思いつつも、近付いてみることにしたのだが……。


「……なんか変だな」


 休憩中かと思ったが、よく見れば馬車は転倒しており近くに何人かの……いやあれは――魔物だ。


「ッ助けなきゃ」


 数は十匹。

 雑魚とは言われるが群れでは厄介なゴブリンとオーク達が馬車を襲っていたのだ。

 護衛らしき人が戦っているが、小さく数の利を生かすゴブリン相手では相性が悪いのか苦戦しているようだ。

 それを見て俺が取る行動は決まっていた。


「――風神!」

  

 師匠との修行で習得した風神弾。

 それを奇襲として使い一匹のオークに直撃させる。

 頭目掛けて放たれたそれは抉るようにオークの頭を吹っ飛ばした。

 仲間が倒された事でこっちにゴブリン達の意識が向く、それに戦っていた護衛達も俺に気付いたようで、


「君は!?」

「いいから! 今は魔物を倒します!」

「あ、あぁそうだな」

 

 異世界での初めての多数戦。

 今は味方らしき人がいるが、命のやり取りで気なんか抜けない。

 そして襲いかかってくる魔物達相手に立ち向かうことにした。

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