第7話:メルリお姉さんとの魔法授業

「おいルクス、お前あのクズに何を言った?」


 二日後、自室で休んでいるとリリアさんが凄い疲れた顔でやってきた。

 哀愁が漂っているというか、心の底から疲れているようなその表情に心配してしまう。リリアさんの疲れた顔なんて俺は見たことなかったからだ。


「えっと弟子入りするって言ったけど」

「あぁ……本当だったのか。アレの妄言かと思ったが、本当に弟子になったのか」


 俺の答えを聞きもうこれ大丈夫かと聞きたいほどに疲れた顔をした彼女に、そういえば伝えてなかったことを思い出した。


「洗脳されてないよな、アレはそういう奴だし……大丈夫か? お前の意識は保っているか? それか脅迫されたか? それだったら言ってくれぶん殴ってくる」

「だい……じょうぶ?」

 

 脅迫というかもはや勝手に決められたが。最終的に教えて欲しいと頼んだのは俺だからそう答えたのだが、自分でも今更ちょっと後悔しているんか凄く不安を覚えさせるような言い方になってしまった。


「どう見ても大丈夫ではないだろう……とにかく何かあったら言え、私が止めるからな」

「その時はお願いリリアさん」

「あぁ、何をしてでもお前を守ろう」


 なんて頼もしいんだろう。リリアさんがそう言うのならきっと大丈夫だな。

 きっとナニカされてもこれで守って貰えるはずだ。

 これで心置きなく修行が出来る――まぁ、不安が消えないのは確かなんだけどさ。


「とりあえず今日から修行だからちょっと行ってくる」

「あぁ、了解だ。だが、危なくなったら……というよりなにかされそうになったら逃げるんだぞ」

「分かってるって。夕食ぐらいには帰ってくるから安心してよ」


 そう言って孤児院から出た瞬間の事だった。

 急に周りの景色が変わり見慣れぬ森に俺はいたのだ。

 あまりにも現実離れした出来事に何かと警戒していると、急に視界が塞がれ周りが暗くなった。


 罠? もしかして何かバグった?

 感じるのはひんやりした何か、目が覆われている事に気づきこんな事が出来て悪戯してきそうな犯人が頭に浮かんだ。


「だーれだ。当てたら景品があるよ」

「…………メルリさん」

「むぅ、昨日言っただろ私の事を呼ぶときはお姉ちゃんもしくはお姉様それかメルリちゃんと……」

「それは嫌なので師匠で落ち着きましたよね?」

「……そうだったね。それと敬語は無しだよ、もっとフランクに接してくれたまえ」

「わかり……分かったよ師匠」


 昨日一日を俺は師匠の呼び方を決めるために使ったことを思い出し、それだけで頭が痛くなってきたが、この先この人と付き合うという事を考えると早く慣れないと不味いよなぁ。


「よろしい、じゃあ早速授業を始める……と言いたいんだけど、まずは君の実力を見てみたいからオリジナルで魔法を使ってくれないかい?」

「えっと、魔法の再現とかじゃ駄目なのか?」

「そんなのつまらないじゃないか、それに君にあの風の魔法があるんだろう?」


 そういえばこの人は魔法を使ったのを見てるんだよな……というかアレで目を付けられたのか? もう遅いけどさ、言いつけ守らないと悪い事って本当に起こるんだなぁ……。


「じゃあやるけど、まだ上手く使えないよ?」

「それで構わないさ、本音を言えば私が見たいだけだから」

「ぶっちゃけたよこの人」

「まあいいじゃないか、ほらほらお姉さんに見せてごらん?」


 まあやらないといけないならやるけどさ。

 という事で俺が今からやるのは風神弾、魔力で風を生み出しそれを掌に集約する。

 でもこれは前見られた魔法、まだ完成していないし何よりこの人の事を考えるとこれじゃあ満足して貰えない。それならここは即興で――。


「おや、それで終わりじゃ――おぉ! その球を起点に周囲の風を集めるのか! 面白いね、それに殺傷力も高い……これを魔物に使えば細切れに出来ちゃうね」


 俺はまだ風神弾を相手に向かって放つことが出来ない。

 それなら周囲の風を取り込むようにすればって考えでやってみたんだけど、一瞬でそれは見抜かれた。

 昔やってたゲームの技を参考にしたんだけど、上手くいって良かったなと思う反面一瞬で見抜かれた事に俺は驚いてしまう。


「分かるんだ」

「これでも私は天才だからね、そうだ名前はあるのかい?」

「即興でやったからないよ」

「そうかい、ならここはお姉さんが名前を付けてあげようじゃないか! そうだな、ここは私のセンスで申し訳ないけど……風渦フウカでどうかな?」

「あ、格好いい」

「そうだろうそうだろう! 横文字でも考えたけど、こういうのはシンプルさが大事だからね」


 この人師匠だ。

 格好いい技を付けて貰ったし、何より個人的にだけどセンスがいい。

 さっそくだけどちょっと好感度が上がったぞ。


 チョロいとか言われたも仕方ないが、やっぱり格好いい技名を貰うと人間は興奮するものなのだ。


「とりあえず私の方針なんだけど、ひとまずはその風の魔法を鍛えていこうかな」

「了解師匠、ところで改善案とかある?」

 

 絶対まだまだお粗末だろうし、何か案があるのなら聞いておきたい。

 そう思い俺は何気なく聞いてみたのだが……。


「そうだね数十個ほどあるけど、まずは最初の授業として自分の魔力の色を知るところから始めようか」

「魔力の色?」

「そうだとも。さてルクス君、魔力には色があることは知ってるかな?」

「知らない……それっと属性魔法とかと関係ある?」

「察しがいいねぇ、基本的には魔力の色は属性魔法に関係があるんだよ」

 

 どこからともなく黒板が現れ、先生風の衣装に一瞬で着替えたメルリ師匠。

 彼女が話すごとに黒板に文字が刻まれていき、簡単にだが魔力の色について説明された。


 簡単に言えば色とは個性のようだ。

 それで大まかに分かれているのが、基本属性である炎・水・雷・木・地・氷・聖・魔の八属性。この属性を持つ者達は体に流れている魔力が色を持っているらしく、炎属性だと赤色って感じで分かりやすいらしい。


 で、二つの属性を持っている者は当然二つの色があり、その色によって使える属性が固定される。


 そして俺と師匠が持っている特殊魔法というものの色は基本が無色。

 で、個人の才能や性格によって色が出る――ただその特殊魔法の中でも絶対に色が変わらない魔法が――。


「私達が使える創造魔法さ。まぁ厳密に言えば色が変わらないというわけではなく……私達は何色にも染まることが出来るんだ。どうだい? ワクワクするだろう?」

「……つまり理解すればどんな魔法でも使える?」

「そういうことさ! 何故創造魔法が使いにくいのかはこの説明で分かるとおり、色を変える必要があるからなんだよね。まったく酷い話だよ、こんな面白いのにハズレ扱いなんてさ……む、いい顔してるね」


 彼女に指摘されて気付いたが、俺は今心の底から笑っていたようで口角が上がっていた。楽しいなと純粋にそんな事を思える授業に心が躍らないわけがなく、俺はどんどん彼女の言葉に聞き入っていく。

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