第6話:ロクデナシへの弟子入り

 次の日の事、俺は昨日から悩み続け眠ることが出来なかった。

 原作に介入して壊してしまう事は出来ない、だからといってあいつを見殺しになんてもっと出来ない。

 でも未来を変える覚悟なんて俺は持てる気が……。


「ルクス君、何をそんなに悩んでるんだい? どれ、お姉さんに話してみるといい」

「……あ、変態」

「変態とは失敬な、私はただの魔法好きのお姉さんだぞ? まぁ、君みたいな子は好きだけどね」


 やっぱり変態じゃないか、そう思ったがツッコむ気力がなかったので言葉を飲み込んだ。というかまだいるのかよこの人、何の用事で来たのか分からないけど、今は一人で居たいからどっか行って欲しいんだけど。


 それから数分まったく動かない彼女に対して、どうせどっか行ってくれないし、会話しなければ面倒くさいと思った俺はせっかくだから来た理由を聞いてみることにした。


「ねぇ変た……メルリさんなんでこの孤児院に来たんだ?」

「ふっふふーそんなの君に会いに来たに決まってるじゃないか!」


 あまりのドヤ顔に無性に腹が立ってしまいジト目で睨んでしまったが、多分俺は悪くない。誰だって真面目に聞いてこんな答えが返ってきたらキレる。


「あ、その目いいね。でももうちょっと蔑んだ感じだと私好みかな?」

「うわぁ」

「ねえガチで引くのはやめよう?」

「でも……うわぁ」

「まあ、真面目な理由としては、未来の英雄候補(笑)を迎えに来ただけなんだけどね」


 露骨に悪態をつきながらそう言ったメルリ。

 (笑)まで口にしたこの人は誰かを思い出しながら更に文句を言い出し始める。


「糞爺め何が英雄好きだろうだから行ってこいだよ。いい機会だったし君がいたから来たけどさ、実物はとんだヤンデレバーサーカーじゃないか。マジで私の期待を返せ、帰ったら髪毟ってやる。あ、でも汚いから触りたくないし新しい魔法創らなきゃ」

「あの大丈夫?」

「あぁ勿論大丈夫だとも、でも心配してくれるなら一緒に魔法で遊ばないかい?」

「いや、それはいいです」

「くっ過去一ショック、好きな子にフラれるってこんな気分なんだ。ごめんよ今までの有象無象」

 

 マジで何だよこの人。

 本当に色々うるさいんだけど……でも待てよ、聞き捨てならない言葉があったん気がするぞ。


「迎えに来たって誰を?」

「君の質問だから答えてあげるけどあのヤンデレだよ。うーんと名前何だったかな、あっそうだノアとかいう子供」

「迎えに来たって……王都にだよな」

「む、知ってたのかい? なら話が早い。今回私は未来の英雄候補(爆笑)を迎えにこの辺境の孤児院にやってきたのさ。まあ目的は君を見に来ただけなんだけどね」

 

 つまりこの人が元凶か?

 いや、違うな話的にその糞爺が呼びだしたって事になる。

 王立アルステラ学園で糞爺って呼ばれるキャラは誰か分からないけど、この人を呼び出せるって事はかなりの強者か権力者だろう。

 それは確かに断ることが出来ない。


「でもやっぱり酷いよねー流石にブラッドウルフを子供に倒せとかいうのは私でもしないのに」

「ブラッドウルフ? ワイバーンじゃなくて?」

「ワイバーンな訳ないだろう? あれの住処に子供送るとかどんな鬼畜だよ」


 ちょっと待って情報がおかしいぞ?

 ノアは嘘をつくような奴じゃないし、この人はまだ短すぎる付き合いの変態だが原作でもクソ女郎であっても嘘はつくようなキャラではない。

 

「その顔何かあったようだね、お姉さんが聞いてあげようじゃないか」


 そう言われ、俺は昨日の出来事を一応は信用できるこの人に話すことにした。

 すると彼女は難しい顔をして、何か思い当たる節があったのか表情を曇らせた。


「これ面倒くさいやつだー。あーあ、確かに予言で英雄候補って出たけどさーマジで人間馬鹿だよね本当に面倒くさいよー。あーやだやだこれ死なせたら私の立場にも影響出るじゃん」

「何か分かったのか?」

「分かったけど、君は関わらない方がいいよ。色々面倒くさいし、何より得がないからね」


 面倒くさい面倒くさいと言いながら露骨に顔を顰めるメルリ。

 だけどどうしても知らなければいけないと思った俺はこう言った――いや、言ってしまった。


「頼む教えてくれ、俺に出来ることならやるから」

「――ん? やってくれるのかい? ほんとう? 嘘じゃないよね。私との口約束は重いよ? 一度口に出したから覚悟は決まってるんだよね。ならいいよね」


 そして数秒で後悔した。

 だって急に顔を近づけてきて早口で捲し立てるどころか、俺を抱え上げて逃がさないと言わんばかりに掴んできたから。


「あのやっぱ――」

「駄目だよ、一度吐いた言葉を飲み込むのは君らしくない。そう駄目なんだ。それは君じゃない。なんでもやってくれるんでしょ? ほらほら、それなら君は今日から私の弟子だ。なってくれるのならなんでも教えよう」


 なんでもは言ってない。

 そう伝える間もなく勝手に色々決められた俺は気圧され、あろうことか頷いてしまった。あぁ、なんで俺って押しに弱いんだろうな、もしも数秒前の過去に戻れるなら是が非でもさっきの言葉を取り消したい。


「じゃあ弟子になってくれるんだよね、わーいやったー初めての弟子だー!」


 俺を下ろしたかと思えば、すぐにその場でぴょんぴょんと跳ねる年齢不詳の美少女。彼女はそれからぶつぶつと独り言を呟いて、何か箱のような物を出現させた。


「はい開けてみて、初弟子祝いのプレゼント! あ、明日も何かあげるから楽しみにしててね」

「分かったけど、その前に教えてくれるんだろ」


 このままじゃこの人のペースだと思った俺は色々諦めながらも彼女に今回の試験の事を聞くことにした。だってそうでもしないと永遠にはしゃいでそうだし……。


「うんいいよ、教えてあげる。ほら人間って色々面倒くさいだろう? 英雄は喜ばれる物だけど、疎む馬鹿もいる。今回はそういうこと、久しぶりの英雄候補に喜ぶ人もいるけれど、それを嫌う者がいてあの子を陥れようとしてるだけさ」

「止められないのか?」

「もう試験の準備はされてるからね、二ヶ月後にある試験は今更中止は出来ないよ。で、君はそれを聞いてどうしたいんだい?」


 どうしたい? 

 そう聞かれるが俺の中で答えはまだ出ていない。

 もしかしたらこの件すらも原作通りでノアは一人でワイバーンを討伐するかもしれないから。だけど、陰謀だと知ってしまった、それにあいつを陥れようとする奴がいるのなら。


「手助けしたい。あいつが生き残れるように」

 

 止められないのは分かった。 

 それにそれを考えるとノアに対して脅した奴がいるかもしれないとも思った。

 敵が何人かも分からないし、どうやって手助けするかも未定だけど……。

 

「ほうほう、それで君は私にどうして欲しい?」

「俺を強くしてくれ、俺に魔法を教えて下さい」

「いいとも、意欲がある子はお姉さん大好きさ!」


 ――今は強くなる。

 幸い師匠は出来たんだ。それもこの世界最高峰の……ならここは頑張るしかないだろう。だって、道は示されたんだから。





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