第5話:星空の下で

 オレ……いや、私は捨て子だった。

 捨てられた理由は色々あるだろうが、両親曰く子供らしくなくて気味が悪いらしい。まぁそうだろう。一度見たもの聞いた事を全部覚える化物のような子供など気味が悪いに決まっている。


 それで四歳の頃に捨てられ、やってきたのがリリア姉ぇのやっている孤児院だった。最初やってきた時はどうせ他の子供と馴染めずここでも孤立すると……そう思ってた。だって、その頃の私は荒れていたし何より近付くなって雰囲気を出していたから。


「新入り? ……俺はルクスよろしく」


 だけどそれをお構いなしにそいつは私に構ってきた。

 事あるごとに私を遊びに誘い、一人で居ようとすると近付いてくる。いくら構うなと態度で示しても鈍感なのかそれに気付かず構ってくるのだ。


 で、そんな事を続けられれば誰でもキレる。

 というか私はある時キレた。

 なんで化物である私なんかに構うんだよって、一人にさせろって。

 だけど……そいつは。


「いやだってオマエ寂しそうじゃん。そんな奴放っておけるかよ。それに俺達家族だろ? なおさら無視できないって」


 私が寂しそう? 

 それを言われた時最初は何を言っているか分からなかった。


 でも否定は出来なかった。

 だって、寂しかったのは本当だから……元いた場所でも孤立して親に捨てられて、そんなの辛くない訳がない。気付けば一人でいいって思ってたけど、本当は……。


「だからさ、意地張ってないで一緒に遊ぼうぜ。そうだ鬼ごっことかどうだ?」


 それがアイツの顔を初めて見た時の思い出。

 そしてそれから私は、オレになったんだ。

 アイツに、馬鹿みたいに素直で優しすぎるアイツに並べるように……何より一緒にいたいから。



――



 憧れの魔法使いメルリと出会って俺が絶望していると部屋にリリアさんがやってきて彼女を連れてどっかに行った。

 今度は逃げ出せないように縛るとか言ってたから多分暫くは会わずに済むだろう。

 服引っ張るの止めてーとか言いながら連れ去られたのはちょっと可哀想だったけど、一緒にいると何をされるか分からなかったから正直助かった。


「……というかあんなキャラだったんだ」


 ゲームの知識のおかげでロクでなしという事は知ってたが、登場回数は少なくミステリアスなお姉さんって感じだったのに、あんなのただの変態だ。

 弟子入りしたいと思っていたけど、考え直さなきゃいけない気がしてきたぞ。


「ってもう夜じゃん」


 孤児院の一人部屋に備え付けられた時計を見てみれば、時間は夜の八時を指していた。今思い返せば時間は指定されてなかったけど、このぐらいの時間になればいつもなら星が見れるしそろそろ丘に行った方いいのかな。

 いや、彼奴の性格的にもう待ってるでしょ。


「そうと決まれば早速向かわなきゃね、後で何言われるか分からないしね」


 で、案の定ハンモックがある丘に向かって見ればそこには既にノアがいて退屈そうにハンモックに揺らされていた。

 

「遅いぞルクスー!」 

「悪いって……ちょっと変態が」

「……変態? 何言ってるんだオマエ」

「でも、変態としか言えないし……まあいいや、星見ようよノア」

「あぁ! 今日はめっちゃ綺麗に見れるってリリア姉ぇが言ってたからな横なろうぜ!」


 そう言われ手を引かれながらノアと一緒に横になった俺は真上を見た。

 見える景色は満天の星空。

 元いた世界では見れないような綺麗な景色。

 あまりにも綺麗なそれに目を奪われていると急にノアの奴が話し始めた。


「なぁルクス、オレ今度孤児院から離れるかもしれないんだ」

「……里親でも見つかったのか?」

 

 何時になく真剣なその声音に俺はそう聞き返した。

 俺達が住んでいる場所は孤児院という場所である以上、そういう事はあるからだ。

 でも、そこまで心配しなくていいはずだ……こういう場合リリアさんにまず話がいくだろうし、彼女が変な相手を紹介するとは思えない。


「違う……オレさアルステラ学園に誘われたんだ」

「え、めっちゃ凄くないか!? でも……」


 いくら何でも早すぎないか?

 知識通りなら原作開始はノアが九歳になる二年後、こんな早くからあの学園に誘われるなんて事はないはずだ。


「流石にもっと先だろ? あの学園は最低でも九歳からじゃなきゃ入れないし」

「……特別なクラスを作るんだってさ、それでオレが選ばれたんだ。だから半年後にはもうオレは孤児院を出るよ」


 これは喜んでいいのか?

 王立アルステラ学園は設備もいいし、様々な魔法の書物が存在する。

 強くなるならもってこいの場所だし、何よりノアはそこで勇者に選ばれる……すなわち世界が救われるという事だし、いいことではあるが。

 こいつの様子を見るにまったく嬉しそうではないのだ。


「行きたくないのか?」

「……うーんとな、行かなきゃ駄目なんだ。行かなきゃオマエ等に悪い」


 どういう事だ? 俺等に悪いって、こいつがいかなければ何か起こるのか?

 気になって聞いて見たが、ノアはそれ以上は答えてくれなかった。

 珍しく弱っているこいつの様子に他に隠している事があると思った俺は、何があるのかを聞いた。

 すると返ってきた答えは信じられないものだった。


「学園に入る試験でワイバーンを一人で狩らないといけないんだって」

「ワイバーンって……ここら辺にはいないよな」

「うん、だから王都まで行って飛竜の谷で倒してこいってさ」

「冗談……じゃないよな」

「それだったら良かったんだけどなー」


 ワイバーンというのは竜の亜種と言われている魔物だ。

 どう考えても子供一人で相手にさせる奴ではない。そんなの死んでこいと言われているようなものだ。


「……どうすんだ?」

「断れないしオレは行くよ、今日はそれだけ伝えたかったんだ。こんな場所じゃないと素直に言えないし。ほんと急にごめんな」


 そこまでいったノアはらしくないよなって言ってハンモックから飛び降り帰ると言って孤児院に戻ってしまう。

 その場に残された俺はというと、何も言えないまま立ち尽くしていた。


 原作を考えるとこれは過去のイベントであり、生き残る事が出来るイベントだ。

 下手に介入して原作が壊れてしまえば世界は魔王の物になるだろうし、何かして拗らせてしまえばそれこそ最悪だ。


 だけど……家族を、この世界で一緒に過ごしていた家族をそんな死地に一人で行かせるなんて。


「出来るわけ……ないだろ」

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