第3話:精霊魔法使いによるパーフェクト魔法教室

 そして翌日。

 時間を作ってくれたリリアさんに魔法を教わるために俺は裏庭にやってきた。

 まだかまだかと待っていれば誰かがこっちに突撃してくる。


「ルクス-何してるんだー!」

「ぐぇ――」


 そしてその突撃を回避する事が出来なかった俺は、潰れたカエルのような声を上げてそのまま地面に倒れてしまった。

 急な襲撃者は倒れた俺を不思議そうにのぞき込み、こてんと首を傾げている。


「そういえば、ルクスはなんで裏庭にいるんだ?」


 何事もなかったように聞かないでよ……そう思うも無駄だと分かっているので、そのまま質問に答えることにする。


「リリアさんに魔法を教えて貰いにきたんだ」

「えっ魔法!? なぁなぁオレも参加していいか!」

「いやノアはもう結構魔法使えるじゃん」


 主人公の証である聖と魔の両属性。

 しかもこの子は天才なのか本を読むだけで下級の魔法なら使えてしまう。

 危ないからという理由で中級の本は与えられてないが、きっとその魔法すらすぐ使えるだろう。


「えーいいじゃん、オレもリリア姉ぇに魔法教えて貰いたい!」

「……駄目、今日は俺が教えて貰うから」

「ずるい! ずるいぞ、ルクスー」


 いやでもさ、俺としては早く魔法を使えるようになってノアを驚かせたかったんだけど。だから内緒で修行したかったのに……でももうバレてるし、流れで教えて貰うって言っちゃったから秘密にしておけないよなぁ。 


「む、もう来ていたのかルクス。ノアもいるが、何故ここに?」


 そんな事を考えているとリリアさんがやってきた。

 彼女は近くに居るノアを見て不思議そうな顔をしていたが、それを気にせずノアは詰め寄った。


「リリア姉ぇオレにも魔法を教えてくれよ!」

「いいぞ元々二人に教えるつもりだったからな。呼ぶ手間が省けた」

「やったーいいってルクス!」

「……よかったねノア」


 まぁ、こいつが笑ってるならいいや。

 なんだかんだでこの世界に来て幼馴染みに甘い俺は、嬉しそうに笑う彼に負けて一緒に授業を受けることにした。


「じゃあ早速始めるが、二人は魔法がどういうモノか分かるか?」

「魔力使ってバーンってやるやつ!」

「ルクスは?」

「似た答えだけど、魔力使って色んな現象を起こしたり具現化する技?」

「概ね正解だ。まあそんな認識でいいだろう。でだ、魔法を使う上で大切なことは何か分かるか? これは答えられなくていい」

「まったく分かんない!」


 最初は答えを出そうと問題を聞いたときから悩んでいたノアだったけど、答えなくていいと言われた途端にそう言った。

 ノアらしいなぁと思うも、俺も分からないのでリリアさんの解を待つ事にする。


「魔法を使う上で大切なこと、それは理解することだ」

「……理解?」

「あぁそうだ。魔法の理屈が分からなければ基本使えない。一部の天才は感覚で使うが、基本的には変化を与え起こる現象をイメージし当てる・使う対象を意識しなければ発動すらせず無駄に魔力が使われるだけになる」


 この世界に住む大抵の種族が使うことが出来る属性魔法は特にそれが大事なようで、理解しなければほぼほぼ使えない。

 それに付け加えるようにそれには知識が必要だと言うことらしい。


 炎属性の魔法を例にあげてくれたが、それを使うには何故炎が燃えるのかを理解し、元は透明である魔力に変化を与え、何をするかをはっきりさせなければいけないそうだ。


 それを聞いて分かったのだが、俺が昨日色んな魔法を再現しようとしても使えなかったのはまったく魔法について分かってなかったからだろう。


「これが魔法の基礎である属性魔法についてだ。で、次に説明するのが属性から外れるとされる特殊魔法。これはレアな魔法だ。既存の属性から外れており出来る事が個人によって左右されるが、基本強力だ」


 特殊魔法もそれを知らなければ使えない事が多く、専門的な知識が必要になってくる分使いづらいが強力な物が多いらしい。


 具現化系の特殊魔法は楽らしいが、魔力消費が激しいという欠点がある。

 他にも種族や血筋によって特殊魔法しか宿せないという事もあるらしく、リリアさんの種族であるエルフは基本的に精霊魔法を宿すらしい。 


「で、ルクスが使える創造魔法だが……これに関してはオマエの頑張り次第だな」

「というと?」

「創造魔法はハズレと言われているが、その理由は前に教えたよな」

「教えて貰ったね。確か燃費悪くて威力低くて再現しか出来ないとか……あ、リリアさん弱い理由って再現するって事を考えるとその分他の魔法の知識を手に入れなければ使えないって事ですか?」


 改めて創造魔法の特性を並べると酷いなおい。

 それに思い立った事を言ってみれば正解だと言わんばかりに彼女は頷いて。


「まあそういう事だ……だがな、悲観する必要は無い。私の知り合いに創造魔法使いがいるが、あの馬鹿は英雄と呼ばれる程に強いからな」

「創造魔法なのにですか?」

「あぁ、あのクソボケは創造魔法であらゆる現象を再現する。その姿から大魔法使いとまで呼ばれているぞ」


 まじか……何それめっちゃ格好いいじゃん。

 アニメ技の再現が昨日の目標だったけど、その人を目標にするのもありかもしれないぞ? でもさ、一つ気になるんだけどさっきからリリアさん口悪くない?


 その人に当たりが強いというか……なんか思い出しながらキレてないか。

 というか、その人に俺心当たりあるんだけど……なんで知り合いなのリリアさん? もしかしてめっちゃ重要キャラだったりする?


「大丈夫リリア姉ぇ?」

「ん? 問題ないぞ、思い出すだけで不快な思いをさせるあのロクでなしのクソ女郎が悪い」

「えぇ……そんな人いるんだ」


 珍しくキレながら話す彼女の様子に心配そうにノアが聞けばそんな答えを返してくる。それにガチで引いた様子のノアが印象的だった。


 で、ここまでの情報をまとめる限りその人はエルフ族と夢魔と呼ばれる魔族のハーフである大魔法使い、夢幻のメルリだろう。

 夢を再現するとまで言われる彼女はアルカディア・ファンタジーでかなりのロクでなしとして登場していた。


 会いたくないけど、会って魔法を教えて貰いたいと思うのは多分あのキャラが見てる分では面白かったからであろうな。

 それで今日の魔法教室は終わり。

 魔法の実践は出来なかったけど、色々知る事が出来てよかったな。


 だけどそんな日から一年後、俺はロクでなしの意味を身をもって知る事になる。

 この頃の俺に戻れるとするのなら本当に伝えたいことが一つ、無闇に魔法で再現するなという事だ。

 

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