第2話:創造魔法って使いにくい

目が覚めると自分がいたのは孤児院の自室だった。

 最初この世界で目覚めたときのようにノアに顔を覗かれていて、起きた瞬間頭がぶつかってしまった。


「いてっ、急に起き上がるなよ!」

「あ、ごめん……というか、なんで孤児院にいるの?」

「なんでって、オマエが鑑定終わった後倒れたからだろ? あの後大変だったんだぞ? 急にオマエが倒れたから鑑定は中止、リリア姉ぇもめっちゃ慌てたし後で謝れよな」

「倒れたって、なんで?」

「鑑定酔いがあるってリリア姉ぇが言ってたし多分それだと思うぞ、まったくルクスは本当に弱いな」


 えっと……鑑定?

 あ、そうだ思い出してきた。

 今日は確か魔法の鑑定日で街に行ったんだ。


 それで……自分の魔法が『創造魔法』で、それを使えるルクスという名前のキャラが裏ボスで……。


「めっちゃ顔色悪いが大丈夫か? 明日鬼ごっこできるか?」

「――この状況で鬼ごっこの心配するのはノアらしいね」

「だって暇だからな!」

「そんな堂々と言うことじゃないでしょ……」


 まだ頭が混乱してるけど、今はいつも通りに過ごさないと心配させちゃうからここはノアが部屋に戻るまでは平気なフリしよう。

 そうしないとノアの事だし、ずっとこの部屋で看病するとか言い出すだろうから。


 とりあえず、考えをまとめたいから早く戻って欲しいな。


「で、何かやることあるか? 今のオレはなんでもするぞ!」

「じゃあ水お願い、ちょっと喉渇いた」

「おう水だな汲んでくる!」

「汲むってどこ……って行っちゃった」


 ノア少年は元気が有り余っているのか走って部屋から出て行って、すぐに見えなくなったこの世界の主人公兼幼馴染み。

 今の時間がどのぐらいから分からないけど暗いのに暴れていいのかな……と思ったのも束の間、すぐに誰かが部屋に入ってきた。


「ルクス、何を頼んだのだ? ノアが部屋に突撃してきたぞ?」

「水を頼んだだけなんだけど、なんでそうなったの?」

 

 この孤児院の主であるリリアさん。

 彼女が部屋にやってきたかと思えばその手にはノアの姿が……完全に伸びているのか意識を失ってそこに居た。


「……死んでないよね?」

「安心しろ、うるさかったから精霊に頼んで眠らせただけだ」

「ならよかった……のかなぁ」

 

 眠ってるだけならいいか。

 でもさ一つ気になったんだけど、子供とは言え五歳児であるノアを片手で持つってどんな筋力してるんだろう。リリアさんって実は結構ゴリ――。


「何か変な事でも考えたか?」


 睨まれた瞬間何でもないという意思を証明するために首を凄まじい速度で振れば、すぐに別の事を彼女は聞いてくる。


「それより、鑑定酔いとは災難だったな。もう平気か?」

「うん、大丈夫だよリリアさん。明日も薪とか拾ってこれるよ」

「ならいい、だがなルクス――いや、いいか。とりあえず今日は寝るがいい、明日は温かいシチューでも作っるから楽しみにしておけ」

「ありがと、心配掛けてゴメン」

「謝るな、連れて行った私にも責はある」


 そこまで言って部屋に帰っていくリリアさん。

 彼女は何かいいたげだったけど、結局言わずに帰ってしまった。

 気になるけど、今はそれより別の事を考えなきゃいけない。

 

 …………いやさ、どうしよう。

 俺これから平和に生きていけるのかなぁ。


――――――

――――

――


 転生して自分が裏ボス候補だと発覚してから約四日。

 平和に生きたいなと思いながらもやっぱり魔法が使いたかった俺は早速魔法を試してみようとしたのだが……。


「何も! 出ない!」

 

 ゲーム風に言うならスカ。

 日頃から魔法で遊んでいるノアにやり方を聞いて魔力を込めてみたけど、一向に何かが起こることはなく、ただただ時間が無駄に過ぎていた。


 既存の魔法の再現が出来るというから、ゲームで見た魔法を再現しようと格好付けて見たのはいいものの……ただただ何か出ようとする感覚だけがあって、何も起こらない。


 ファイヤーボールを放とうとして掌を前に出しても、アイスランスを出そうと顔に手を当てて技名を叫んでも、ラピッドサンダーを繰り出そうと詠唱してそこら辺にあった木の棒を構えても――本当に何も起こらない。


 いっそのことゲームのようなスカ音があればいいものの、あるのは虚無ただ一つ。

 早速項垂れたというより出鼻を挫かれ引かれて折られた俺は異世界の厳しさを思い知っていた。


「こんな思いをするならばいっそ、そこら辺のモブに転生したかった」


 というかゲームのルクス、貴様凄いな。

 めっちゃ強くてやばいくらいの魔法連発してたけどよく使えたなホント。

 今俺の尊敬出来る人ランキング上位に君の名前が載ったよ。あ、一番はリリアさんである。これは生涯変わらないと思う。


「やばいよ、すっごい惨めだよ。世の創造魔法使いはどうやって生活してるの」


 魔法が使えるからといって冒険者等にならなくていいとはいえ、こんな難しい魔法というか使い方が分からない魔法でどうやって暮らしてるんだろう?


 創造魔法専門の師匠とかいないのかなとか思ってしまうが、ゲームにいるネームドキャラで創造魔法を使える人は本当に限られているから出会える気がしない……というか、この先のルクス(俺)に待ってる運命的に会える気がしないというか何というか……。


「この先に待ってるのって、分かる限りだとまずは監禁、次に拷問、そして洗脳、最後に奴隷……うん、考えるだけで気分悪いや」


 よく裏ボスになるまで生きてたよなぁルクス君。

 本当に尊敬するというか、それでも異種族のために立ち上がった君本当に勇者だよ。

 

「とりあえずアレだ。気分転換にもうちょっと魔法試そうか」


 でも何を試そう。

 俺はこの世界の魔法と相性が悪いのか全然使える気がしないし……ん、いや待てよ? この世界の魔法が使えないなら前の世界の魔法などを使えばいいのでは?


 やばい、俺天才かもしれない。

 試しに俺が好きだった漫画の技を真似してみよう。

 確かあの漫画で原理が説明されてたから想像しやすいし。


「えっと確か、掌に風と魔力を集めてそれを球体にするイメージ……」


 あの漫画だと魔力的なモノの呼び名は違ったけど魔力はどんなモノにでも変化する性質を持ってるからきっと出来るはず。

 そう思い、想像し知識を頼りに風を集め球体にするというイメージだけを考え集中していると。


「え、あ! 凄い風が生まれてきた!」

 

 子供のように騒いでしまったが、初めて起こった魔法的な現象。

 それに喜ばないはずがなく、はしゃいでしまい集中力が途切れた瞬間風が霧散してしまった。


「あ、やばい。じゃあ今度は集中して」


 集中だ集中。

 変な事を考えないようにして、めっちゃ集中して魔力を集めて球にする。


「出来そう! これってマジで風神弾使えるの!?」


 もうすぐ球になる。

 そう思った瞬間、感じるのは脱力感。

 何があったかも分からないうちに俺は地面に倒れていて、吐き気と目眩に襲われた。


「――え、何が?」


 そう呟いたのも束の間、段々意識が落ちていき気付けば目の前が暗くなってった。

 それから数時間後、目が覚めた俺は野外に干されていた。


「なあルクス、お前は馬鹿なのか?」

「返す言葉もありませんので出来れば下ろして下さると助かりますリリア様」

「姉に向かってそんな硬い言葉を吐くでない、追加だ」

「いや本当に魔力切れで倒れたのに蔓で吊すのは酷だと思うんだ」

「……それもそうだな下ろすか」


 蔓で吊される事約十分。

 倒れていた所を発見され心配掛けた事を理由にそうなったんだけど……摘ままれた猫みたいに吊されていたせいで俺の尊厳はボロボロに。


「ルクス、魔力切れは命に関わると教えたはずだ」

「そうだね、一番最初に教えてくれたね」

「じゃあ何故倒れた? お前はもうちょっと賢いと記憶してたが?」

「あのぉ初めて魔法が成功して調子乗りましたすいません」

「はぁ……まぁいい次からは気を付けろ。だが――」

「だが?」

  

 だが、なんだろう?

 これもしかして、魔法使うなとか言われるパターン?

 それだったら嫌なんだけど……。

 

「次魔法を使うときは私が一緒にいるときにしろ、精霊魔法しか使えん私だが魔法の知識は多少ある」

「あ、使っていいんだ」

「禁止したらその反動で何するか分からんからな、それなら見ているとこでやって貰った方がいい」


 それだけいったリリアさんは水を持ってくるとだけ伝え俺を置いて部屋から出て行ってしまった。残された俺はというと今日使えかけた魔法の事を思い出す。


 倒れてしまったけど、初めての成功に近い現象。

 きっとアレを練習すればいつかは再現できるはず……そうと決まれば。


「早速明日リリアさんに頼んで修行開始だ!」


 目指すは完全なる風神弾。

 漫画の技が再現できるとか最高だし、格好よく使ってみたい。


 それに、ちょっとだけど目標が出来た。

 この世界で平和に生きるというのは確定だけど……どうせなら楽しんで生きてみたい。だから俺は漫画やラノベそしてアニメの技を再現するために魔法を頑張ってみよう。

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