敗北予定の裏ボスに転生した俺は、前世からのオタク知識でハズレ魔法を極め最強無敵の英雄へ

鬼怒藍落

第1章:裏ボス予定の男に転生

第1話:異世界転生? もしくは転移?

 昔から創作の世界が大好きだった。

 誰かが作った物語にゲームに漫画そして小説……といった誰かが想像して作られた世界を楽しむのが大好きだったのだ。娯楽として何より生活の一部としてその世界に夢中になるのが日課とも言っていい。


 そんな青年が俺こと間宮光まみやひかるだった。

 子供の頃から色んな創作物……まぁ分かりやすく言えばサブカルチャーに触れ続け、オタクを拗らせ大学生となり、最近の事と言えば自給自足のためにバイトに明け暮れる生活を続けているといったいたって平凡な人生。


 何か変化を求めるが、変わりすぎる事は嫌だなとか思う凡人。

 そんな俺は今日――――。


「しゃぁぁ! 裏ボス撃破ァ!」


 自室で新作RPGを完全クリアし勝利の雄叫びを上げていた。

 画面から聞こえる豪華なエンディング、スタッフロールが下から流れ今までの旅を振り返るように街に寄る主人公達の姿が見れる。


 それを見ながら達成感に満たされた俺は、もう一度咆哮した。


「いやぁ、ここまで本当に長かった。マジで頑張ったよな俺!」

  

 プレイ開始して約……四十六時間ぐらい?


 詳しい時間は分からないが裏のエンディングまで寝ずにプレイしたのは確かだ。

 しかもプレイスピード的にほぼ最速、試しに最速攻略をタイトルに着けている配信も見た限りまだクリアしてないっぽいし、SNSで呟いている者もいない。


 ドキドキしながらサーバーにクリアタイムを記録すればなんとマジで俺が一番最初にこのゲームをクリアしたらしい。


「でもそれにしても、裏ボスは少し可哀想だったな」


 ストーリー的にあのボスは、なってしまった系の裏ボス。

 元々は主人公の幼馴染みだったのに闇落ちして裏ボスとなった哀れな奴。


 セリフ的にも後悔していただろうし、主人公に倒された時には笑顔すら浮かべていた。そのせいか妙に印象に残っているし、感情移入もしてしまう。


「でも、まぁクリアはクリアだ! 最高に面白かったし、トロコン目指すのは明日にして今日は寝るか」

 

 そんな事を思って俺は数日ぶりに椅子から立ち上がり、ベッドに横になった。


「あ、やべ電源切り忘れた」


 でもいいか、もう疲れたし今更電気代など気にしても無駄。

 明日も休みだしゲーム三昧は変わらないからこのまま寝てしまおう……。


『最速クリア記念、特別パッチをダウンロードします――完了、どうか良き旅を』


 何か声が聞こえた気がする……なんだろうなと思いつつも眠気に勝てなかった俺はそのまま意識を落とした。


 そして次に目が覚めると草原で横になっていた。

 で、そんな起きたばかりの俺を見下ろす銀髪の少年がいる。


 寝起きでまだ覚醒していない頭、少し周りを見渡せば何人かの子供達が居るのだ。

 元気そうな子供達だ。それになんか皆顔が整ってるし、きっと将来はイケメンや美女だろう。


 ……それになんか皆髪の色が凄かった。

 それはもう多種多様でピンクとかもある。

 今時の子供って髪まで染めるんだとかいう的外れな感想を抱きながらも、声をかけられていることに気付いた。


「――――」


 聞き慣れない言葉だ。

 何を言っているのか分からない。

 目が覚めたばかりだからまだ頭が働いてないからだろうか? ……そう思ったが、どうやら違う。意識がはっきりしても何故か理解が出来ない。


 これはもしかして、日本語ではないのだろうか?


「――――…………――――」


 やっぱりそうだ日本語じゃない。

 じゃあ何語なんだ?


「――ル……ス―――クス――ルクス!」


 だけど不思議と声をかけられる内になんて言ってるのかを理解出来てきて……。


「ルクス! ずっと寝てたら駄目だぞ!」

「あ、ごめん」


 気付けば何を言ってるのか完全に理解出来るようになってた。

 それだけじゃなくて自然に言葉が出てきた。

 だけど違和感、自分の声はこんなに高くなかったはずだ。


 立ってみるが、そこで一度よろけてしまう。理由としては体が思うように動いてくれなかったから。

 何で? そう思うも理由は明白、自分の体を見てみれば縮んでいたからである。


「え? なんで?」


 それに口調も違う。

 いつもだったら、なんでだ? とかいう筈の自分の口は高い声でそう言った。

 ふと目の前を見てみれば、俺とは違うが不思議そうにこっちを見る少年がいて、周りの子供も不思議がってる。


「どうした?」


 心配そうに顔を覗いてきた少年がそう聞いてくるが、この状況が一切分からない俺の頭には疑問符ばかり。どうすれば良いのか分からないが、とりあえずここは乗り切ろう。


「……大丈夫。ごめんね、それより早く遊ぼうよ」


 誤魔化そうと思って喋ってみたら自然にそう言えた。

 思い返してみれば、確か今日は遊ぶ約束をしていたと記憶している。


 でも、違う。

 俺はそんな約束してないし、何よりこの場所が何処なのかも分かってない……筈なのに、どうしてか不安ではないのだ。


「変なルクス。まあいいや、じゃあ寝坊したオマエが皆を見つけろよな!」

 

 そう言って走り出す銀髪の少年。

 彼に続くように周りの子供達は各々逃げ出し、何処かへ行った。


 何も分からない状況、目覚めたばかりで自分は子供になっている……何をすべきか分からないが、今は皆を探さないと。

 そんなことを思ったのが自我が戻った初日のことだった。



 ――

 

 あの日から一ヶ月が経った。

 どうやら俺は異世界に生まれ変わったらしい。

 それも突然この世界にやってきた……という訳ではなく、生まれ変わってルクスとして六年間生きてから記憶が戻ったようだ。


 異世界と思ったのには理由がある。

 最初は拉致されたと思っていたが、明らかに元の世界にはいなかったようなワイバーンのようなものが空を飛んでいたし、魔法なんてものもあるからだ。


 そしてどうして生まれ変わったかって言えたのは、この世界で生きていた記憶も俺は持っていたからだ。


 そして、この世界で俺は孤児らしい。

 親はおらず、最初に目が覚めたときに周りにいた子供達と一緒に住んでいるようだ。あと、そこでここが異世界だと確信したのだ。理由としては俺の住んでる孤児院にはエルフがいたから。


 そう、エルフである。

 ファンタジーには絶対と言っていい程に登場する耳長くて魔法が使えるあのエルフ。見た時は本当に驚いたな。だって本当に耳が長くてめっちゃ美人だったから。

 

 まあ、それは置いておこう。

 とりあえず今俺が分かることは、俺が異世界に転生したということだけ。

 理由なんか分からない。よくあるラノベとかなら死んでからとかがあるが、俺は死んだ自覚とかないし、そのことについて記憶がない。


 じゃあ転移? とも思ったが、それなら子供になっていた理由が分からないからだ。あと分かる事と言えば、この世界はよく想像される中世付近の世界なのか、電気などが使われてなくて、夜の明かりなども魔石という物を使っているらしい。


 まさに純ファンタジーの世界、一度は俺も憧れた事はあるが実際に自分が来るとなると妙な気分になるのは何故だろう?

 そんな事を考えながら俺は、この世界に来て日課になった日記を書いていた。


「ルクスーまた何か書いてるのか? そんなの書いてないで遊ぼうぜ」

「ノア、何かじゃなくて日記。あともうすぐ書き終わるから待って」

「……はいはい…………終わったか?」

「まだ」


 一度は納得した彼だが、すぐに終わったかどうかを聞いてくる。

 

「なーなーまだかー?」

「まだだって」

「…………はやくー、なーはやくー」


 ……少しも待てないのかこいつ。

 というか、邪魔されるせいでまったく日記が書けない。

 昨日は寝てしまったから昨日の分を書いておきたかったけど、この様子だとゆっくり書けそうにないよな。


 まあそれならやることもないし、今は子供時代を楽しむか……と、そう思ったんだが、俺は大事な事を思い出した。


「というかノア、今日は遊べない」

「なんでだ? なんも用事なんかないだろ?」

「いや、今日は俺とお前は町に行くだろ? 確か魔法が使えるか確かめに行くってリリアさんが言ってたじゃん」


 この孤児院の主であるエルフのリリアさん。

 彼女曰く、今日は魔法適性を確かめに町へ行くそうなのだ。

 俺はこの日を楽しみにしていたし、念願の魔法が使えるならばと今日まで色んな妄想をしてきた。 


「そうじゃん! じゃあ尚更早くしろよ魔法だぞ魔法!」

「分かったよ、今あの人のとこに向かうからじっとしてろ」

「じっとしてられるか! とにかく行くぞ!」

「了解、いこうか」


 それにしても魔法か……いったどんな事が出来るんだろうな。

 うん、楽しみだ。

 俺は思った以上に魔法が使えるのが楽しみなようで、とても軽い足取りで孤児院から出て行った。


――――――

――――

――


 やってきたのは近場の町。

 リリアさんに連れられてそのまま協会に行けばそこには何人かの子供達が既にいた。思ったより人がいるなと思いつつ、そういえばこの世界で魔法は憧れの対象らしいので、この人数は当然だろうと思った。


 子供達が並ぶ列で暫く待っていれば、協会の扉が開き中に子供達が入っていく。


「なぁなぁルクス、オレ達どんな魔法使えるんだろうな!」

「興奮しすぎ、順番待ってれば鑑定して貰えるんだから待とうよ」


 そんな風に彼を宥めるが俺は俺で凄い興奮していた。

 だって魔法だぞ? 数々のサブカルチャーの登場人物が使ってきた魔法。それを自分が使えるなど嬉しすぎるし、楽しみじゃないわけがない。


 リリアさんに聞いた限りこの世界にあるのは、属性魔法とそこから枝分かれした特殊魔法。主な属性は炎・水・土・風・そして珍しい聖・魔。


 属性魔法は最大二つまで使う事が出来るらしく、もう一つの特殊魔法はあまりにも数がありその強さはピンキリ。だがその特殊魔法の中でもハズレと呼ばれているモノがある。


 それが『創造魔法』なんでも魔力消費が激しく威力も低く出来る事もほぼ既存の魔法の再現ぐらいだという。

 これを聞くと何処かで聞いたような設定だなと思うのだが、何処だっただろうか?


 そういえば、俺がこの世界に来る前にやっていた『アルカディア・ファンタジー』の設定に似ているような、そんな事を考えているうちに俺達の順番がやってきて鑑定されることになった。


 だけど一度疑問を持ってしまえば、人間というのはそれが気になってしまうわけで……どうしてか、アルカディア・ファンタジーという言葉が頭から離れなかった。


「おいルクス、オレ属性魔法だったぞ! しかも聖と魔の両属性、凄くないかオレ!」


 聖と魔?

 それで名前がノア?

 待ってくれ、それ何処かで聞いた……というか、今思ってるアルカディア・ファンタジーの主人公の名前だった気が。


 待て、待ってくれ。

 いや、本当に待って?


「というか次ルクスの番だぞ? はやくしないのかー?」

「……ごめんねノア、鑑定お願いします」


 いや、多分気のせいだ。

 俺の立場が聞いた事あるとか思ったけど絶対気のせい。

 だって、こんなキャラ……物語が始まる学園にいなかったから。

 ルクスという名前とかも時々テキストで出てきたし、何より最後の場面で主人公が呼んでいた名前が同じだったとしてもきっと気のせいだ。


「ぼーっとしてたけど大丈夫かしら? 人酔いでもしたの? ……まぁ、ささっと鑑定してあげるから後はゆっくり休みなさい」


 鑑定魔法で俺の事が調べられる。

 少しむず痒さを覚えること数秒、鑑定魔法のお姉さんが少し申し訳なさそうな顔でこう告げてきた。


「魔法適性はあるわね、けれど肝心の魔法が……」


 待とう、ちょっと待とう本当に一回待ってその口を閉じよう。

 聞きたくない。俺の使える魔法など聞きたくない。


 出来れば別のであって欲しい。ほらあの料理道具魔法とかそこらへんにしよう? それなら喜んで俺は料理人になるからさ!


「特殊魔法の創造魔法ね。とても難しい魔法だわ」


 あぁ、終わりだ。これ、俺が転生したの裏ボスである――明星の覇王ルクスだ。

 その事実に気づいた俺はそのままショックで気絶した。

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