ナカガワさんと猫と父。

niwa_1999

見た夢の話。

「では権堂さんのお宅に納入しました事のサインを」

「……ハイ、確かに」


 大人以上の大きさの2メートルほどの高さの箱が立てかけてある。

 宅配業者が帰ったあと、子供達は早く開けようとカッターを持ってきて早速開封しようとしていた。


「じゃ、おかあさん、人と会ってくるからあとはお願いね、例のことたのむわよ」


「分かった、これ開けて良いんでしょ?」

 姉が母に聞いた。

「いいわよ、でも無茶な使い方したら駄目よ?」

「わかった」

 下の弟が既に開け始めている。

「行ってらっしゃい」

 上の姉が母親を見送る。


 近未来的なパッケージのかなり大きい箱を、2人は少し苦労しながら開いた。

 厳重な梱包材をまき散らしながら『それ』は自動的に電源が入り起き上がる。

 それは最新式のアンドロイドであった。

 モデルチェンジで、年々すぐに陳腐化する問題を、拡張インターフェイスとやらで解決したモデルである。

 メーカーの努力により売れ行きが爆発的に伸びて、今では予約もままならない。

 そんな大人気の最新式アンドロイドを何故、権田家が、どうやって手に入れたのかいうと、母が近所の商店街の福引きで特賞を当てたからだ。

 子供には喜ばれたが、母は一等の温泉旅行が良かったらしい。


 起き上がったアンドロイドは、ゆっくりと自分をキラキラした目でみている4つの眼をみて挨拶する。

『……はじめましテ、私はTKR社製アンドロいど、TPー20510305といいマス、よろしくお願いしまス」

「よろしく、ボクの名前は権堂登だよ! 12才!!」

「はじめ……まして、私は権堂澄香、18才よ」


『よろしくおねがいしまス、ただいま言語チップが最終的な調整を行っていますノデ、言葉が聞きづらいと思いマス』

「そんなことないよ! スゴイ凄い!!」

「へーちゃんと受け答えするのね、アヤちゃんの所は会話すら出来ないもの」


『恐縮でス』

 

 散々2人はアンドロイドに質問し、名前を付けようと言うことになる。

「それは、問答無用に『ナカガワさん』でしょ」

「だねー、ウチならそれしかないよねー」

『ナカガワさん、なかがわさん、ナカガワさん、承知しました、私の事は『ナカガワさん』とお呼びください』

「よろしくー、ナカガワさん」

『質問があるのですが、ヨロシイですか?』

「なになに? なんでも聞いて!」

『なぜ『ナカガワさん』なのでしょう? 思い違いでないのならこの名前は名字であると思うのですが、こちらのご家庭の『ゴンドウ』とは違いますよね』

「スゴイ! そんなフクザツなことに疑問に持つんだ!?」

『恐縮です』

「あのね、昔、私達の家族ぐるみで仲の良かった『ナカガワさん』って居たのよ、でね、その人達が父親の転勤で離れちゃったのね? で寂しいからペットを飼おうって事になって付けたのが『ナカガワさん』って訳」

「ナカガワさん、3年前に死んじゃったんだよねー 2代目ナカガワさんだね!」

『犬ですか? 猫ですか?』

「カメよ、ミドリガメ」

『亀……』

 

「そ! 改めてよろしく! ナカガワさん」


 一通りの機能の説明を聞き終えた2人はせっかくだし、何かやらせようと言うことになった。

「なにさせようか? あんまり無茶なことは無理だよね」

「こうしない姉ちゃん? 例の猫を探させるてのは?」

「ああ、そうかー! そういうこともお願いできるのかな? でもちょっと難しいんじゃない?」

「最新式だよ? 出来るでしょ!」


『何をお探しですか?』

 聞けば両隣の飼っている家猫が行方不明らしく、懇意にしているということで母が描いた絵を元に、ビラを撒こうと言うことを母から頼まれていたのだ。


『どんなネコさんなのですか?』


「これ、2匹なんだけど……」

 澄香が、あまり上手いとも思えない、2枚の猫の絵を見せる。

『スキャンします ・ ・ ・ ・ ……スキャン終了、特徴を覚えました』


「凄いなー」

『恐縮です、では早速行ってまいります、少々お時間が掛かるかも知れませんが、安心してお待ちください』

 そうして出かけるアンドロイドなのだった。

 そこに澄香の携帯の電話が鳴った。

「……はい、ハイ、分かりましたじゃ今から取りに行きますね、15番区コロニーの……ああ、そこならわかります、いえいえ、ハイ! では後で」

「私も家をしばらく家を空けるわ、登、留守番頼むわよ」

「男?」

「違うわよバカ、じゃあ行ってくるから」

「ハーイ」


 一人になる登、こんなことならアンドロイドが戻るまでやることが無い、家の中に居させるべきだったなあと後悔し始めていると、ピンポンとインターホンが鳴った。

 インターホンの画面に映し出されたのは三河屋の兄ちゃんだった。

 

「あ、兄ちゃん! 丁度良かった! ヒマしてたんだ」

『おう登! 権堂さん居るかい?』

「今出てる、すぐ戻ってくると思うけど」

『じゃ、サボりついでに待たせて貰うかな』

「うん、玄関を開けるよ」

『おう!』


 誰も居ないと知るや、ずかずかと権堂家の中を入ってくる三河屋。

「登! いいもの持ってきたぜ!」

「漫画じゃん、どうしたのこれ」

「商店街の床屋からの差し入れでな」

「へー、マガジンじゃんか」

 見れば数十冊はある。


「……なにかこれで出来ないかな、ドッキリ的なこと」

「登、イタズラもほどほどにしとけよ?」

「そうだねー、前も大目玉食らったからなあ、そうだ! 敢えて微妙な事をしよう」

「微妙なこと?」

「怒っていいのやら、褒めていいのやら分からないこと」

「まあ、それくらいなら」

 どうせなら部屋を片付けて後で、リビングの各席にマガジンを置くという嫌がらせをしようと画策


「兄ちゃんも手伝ってよ!」

「ハイハイ」


 ちょっとしたイタズラが出来上がり、家のインターホンが再び鳴った。

 帰ってきた母と、もう一人が居る。

「え、誰?」

 登が不思議がっている。

「覚えてないか登、4年位前に会っているんだが」

「……あ、お父さん!?」

「大きくなったなー、登」

「なに母さん、今日から一緒に住むの?」

「そうよー、なぜかさっきそうなったのよ」

「父さんが出て行った理由って何なの?」

 登はズバリ聞いた。

「だってお父さん、『第三のビールはもはや本物のビールよりも美味しい』とか言うから」


「しょうもな、うちの家庭不和しょーもな」


「あ、権堂さんお邪魔してます」

「あら、三河屋さん、丁度良かったわ、今月分のビール4ケースお願いします」

「毎度」

「三河屋さん、ウチでご飯食べるでしょ? 良い鹿肉が手に入ったから」

「頂きます、すいませんね」

 しばらくすると、夕飯の料理がリビングのテーブルに並ぶ


「三河屋さんの長男か、立派になったなあ」

「お久しぶりですね、権堂さん! そういえば、おかみさんのオススメで松本の温泉に新婚旅行で行ったんですよ」

「ああ松本なあ! あそこは良かっただろう?」

「そうですね! 嫁さんの浴衣の帯を引っ張って「アーレー!」なんつって」

「ははは、そうだろうそうだろう」

 父と近所の兄ちゃんがなにやら盛り上がる

「ときに君は競馬をするかね?」

「はい、たまに」

「君、話が分かるねー今度、競馬場に見に行こうか」

「いいですねー」

「でも今おかみさんの鹿肉を食べているのでウマシカになっちゃいますね」


「いーんじゃねーの? あんたら馬鹿だから」

 登の辛辣なツッコみ。



 凄まじいスピードでナカガワさんが走る、両手にはなにやらぶらぶらと何かを持っている。

「あれ死んでんじゃねー?」

 近所の中学生がナカガワさんを見ながらつぶやいた。


「ただ今戻りました」

「あ! ナカガワさんオカエリ!!」

「なんだアンドロイドを買ったのか」

「いえ商店街の福引きで当たったものですから」


「見つけましたよ猫」

 ぐったりした猫を両手に持ちながら、ナカガワさんはドヤ顔をする

「ふーん、ところでこれは死んでいるのかね?」

 と、父。

「あらやだ、死んでるの?」

「いえ、生きていますよ」

 2匹の猫を目の前に差し出すナカガワさん。

「……にゃー」

 か細い声を上げる猫

「下ろしてあげて」

「逃げないかな?」

「腰が抜けて動けませんよ」

「あら、可哀想に」

 降ろされた猫はピクリともしない

「2匹とも見つけたのね、どこにいたの?」

「似た種が集まる場所を検索しました」

「猫の集会所も検索で分かるの?」

「データに入っていました」

「まあ便利ねえ」

「それ便利か?」


 そこに澄香が帰ってきた。


「どこか行ってたの?」


「バイト代貰いに行ってた」

「ヨッお金持ち!」

「うるさい、ところでなんなのよコレ」

 見ると、テーブルの上にマガジンが無視されて置かれたままだ


「なんでマガジンなのよ! ここは当然ジャンプでしょ! しかも一冊だけなんでチャンピオン?」


「バカヤロウ、むしろ男は黙ってチャンピオンだろ!」

 三河屋が声を挙げる。

「出たチャンピオン派!」

「どっちでも良いがなんでサンデーが無いんだ?」

 愚痴る父。


 と、登は。


(コロコロコミック派のボクは黙って耐えよう)



どこからかBGMが流れてくる。


♬るーるる、るるっるー きょおーもいいてんきー♪



目が覚める私。



「なんやねんコレ」


            おわり



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