第5話
「まず仕事は大きく分けて二つある、魔道具の修復と作成だ。この店では俺は修復をメインに、二人は作成をメインに仕事をしてもらってる。確認したいんだが魔道具師の使う刻印魔法については知っているかい?」
「いや、すまないが知らない」
『それなら私が知っていますよ。魔道具に魔法陣を刻むための魔法ですよね?』
「ああ、その認識であってる。魔道具は魔法陣を刻むことでその魔方陣に応じた性能を発揮する、その魔方陣を刻むための魔法が俺たちが使っている刻印魔法だ。じゃあ、魔道具師が使う特殊な魔法石がはめ込まれたペンを使って刻印魔法を発動したときにだけ使える魔法については?」
『それは初めて聞きましたね』
「俺たち魔道具師はこの魔法によって作業を分担している」
スピカはこの話を聞いて首をかしげる。
「この魔法によって作業を分担…?ということは人によって使える魔法が違うのか?
」
「ああ、その通りだ。その魔法は神からの祝福という意味を込めて魔道具師たちの間では
「
「例えば、俺のギフトは魔法陣のどこが壊れているのかがすぐにわかるって魔法だ。だから、修復のほうをメインにやってる」
「ということは、アルタイルとベガの
「そういうことだね、まあそれはおいおい本人達に教えてもらってくれ」
そういいながら、アークは作業場の奥へと消えていく。
再び戻ってきたアークの手には手の平より少し大きいぐらいの板のようなものがあった。
「それは?」
「これはこの町の門で使われている魔道具だ。効果としては犯罪歴の確認、この町への悪意の有無、虚偽の判別だな」
「あーなるほど、その魔道具があったから私があっさりと街には入れているわけか」
「そのとおりだ、寝ている状態だったがスピカのことはこの魔道具で町に入れても問題ないことは確認している。ま、安全かわかっていなかったらそもそも店にも連れてきていないさ」
「確かに、その通りだな」
なぜ自分のように明らかに怪しい人間がすんなりと街には入れたのか疑問だったが、そんな魔道具があるなら納得だ。
引っかかっていた疑問が解消しスピカはすっきりとした気分だった。
アークはそんなスピカをよそに話を続ける。
「この魔道具は魔法陣が破損していて修復を依頼されたものだ。基礎的なことはこれから勉強してもらうが、今日は実際に修復するところを見せたいと思う」
そう言ってアークは壊れた魔道具を机の上に置き、ペン立てから宝石のような綺麗な石がはめ込まれたペンを手に持った。
『そのペンがさっき言っていたペンですか?』
「ああ、そうだ。ここにはめ込まれている石が刻印魔法に反応する特殊な鉱石、魔法を使うと星のように輝くことから星の石とも呼ばれてる」
「星の石…」
スピカはアークの持つペンにある星の石を見つめる。
その石はアークの瞳の色と同じきれいな翡翠色をに輝いていた。
「綺麗な色だな」
「ははっ、ありがとう」
「ん?」
スピカの言葉にお礼を言うアークに対し、スピカはなぜお礼を言うのだろうかと首をかしげる。
「星の石は最初に刻印魔法を使った人によって色が染まるんだ。だからきれいだとほめられるとうれしいんだよ」
アークは照れたように頬を掻く。
「なるほどそんな効果もあるのか」
「色が染まるだけじゃなくて、一度色の染まった星の石はその人にしか使えなくなるんだ。だから魔道具師はそれぞれ自分の色の星の石がペンにはついてるんだ」
アークの言葉を聞き自分はどんな色になるのだろうかとスピカは考える。
自分だけの色。
それはどんなものなのだろうか。
星にいたころは何一つ自分だけの物は持っていなかった。
同じ規格で作られた同じものだけが並ぶ日々。
そんな生活を送ってきた自分が、自分にしかないものを得たら、何か自身の感情にも影響を与えるのではないかとスピカは考える。
「話が少し脱線したね、じゃあ実際に直してみようか」
アークの言葉にスピカは思考の海から浮上する。
刻印魔法が使えない今の自分が考えても仕方のないことである。
とりあえず今はアークの作業から勉強させてもらおう。
アークがペンを構えるとペンの先が少し光、それに反応してペンにはめ込まれた星の石もほんのりと輝き始める。
それは優しい光だった。
星の石から漏れ出た光が小さな翡翠色の熊を形作り魔法陣の上へと降り立つ。
魔法陣の上を歩きだした熊は少ししてその動きを止めた。
「これが俺の魔法だ。この熊が止まったところが魔法陣の故障箇所になる」
『なんか微妙な能力ですねえ、これ魔法なくても見ればすぐにどこが壊れてるかわかりませんか?』
レグルスの期待外れだという態度にアークは苦笑する。
「確かにこの規模だと、あんまり意味のない魔法のように見えるよね。でも、魔道具によってはとても役に立つ魔法なんだ。例えば魔道具自体がかなり巨大なサイズで魔法陣全体を確認するのが大変だったり、魔法陣が複雑なものだったり故障個所を探すのが大変なものだと特にね」
それを聞いてスピカとレグルスは納得したというように声を上げる。
『プログラムのエラーの発見みたいなものでしょうか。そう考えると確かに便利ですね』
「実用性は高そうだ」
アークはレグルスの言葉はよくわからなかったが、二人の様子から褒められていることはわかった。
「さて、魔法は確認できたし修復していこう」
アークのペンが魔法陣の上を滑っていく。
その動きに合わせて魔法陣のかけていた箇所に新しい線が刻まれあっという間に魔法陣が修復された。
「これで修復はおしまいだ、修復自体はこんな感じで慣れればすぐに終わるけど、魔法陣に対する知識は多く必要になる。元の魔法陣の形がわからないと直すこともできないからね。だからこれからしばらくは魔法陣勉強がメインになると思う」
アークの様子を見ると言葉通り作業自体は単純なものに見えた。
しかし、この星にはカメラのようなものもないようだし、自身に魔法陣の知識がなければ修復は不可能なのだろう。
『一緒に頑張りましょう、スピカ』
「よろしく頼むよ」
こうしてスピカの魔道具師としての生活は第一歩を進み始めた。
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