第4話

窓の外から朝日が差し込んでくる。


静かに寝静まっていた町に時計塔の朝を知らせる鐘が鳴り響き、徐々に人々の生活の音が聞こえ始める。


「…ここは…ああ、そういえばこの店で働くことになったんだったな…」


鐘の音に寝ぼけ眼をこすりながらスピカが目を覚ます。


目を覚ますべく伸びをすると窓に目を向ける。


昨日は夜だったので気づかなかったが窓の外にはスピカの星とはまるで違った街並みが広がっていた。


「これがアストラの街並みか…、情報で聞くのと自分の目で実際に見るのとでは大違いだな…」


スピカはそういいながらベッドから降りる。


すでに誰かが起きているようで部屋の外からはいい匂いが漂ってきていた。


部屋を出てリビングに向かうとアークとベガがすでに起きていて朝食の準備をしていた。


「おはよう、スピカ。もうすぐできるから椅子に座って待ってて」


「ああ、おはよう」


言われたとおりにスピカが椅子に座って待っていると、アルタイルが眠そうにあくびをしながらリビングへと入ってきた。


どうやら、アルタイルは朝に弱いらしい。


「おはようっす~…、みんなはやいっすね…」


「おはよう、みんな揃ったし朝食にしよう」


アークとベガが朝食をテーブルに並べる。


スピカの星では食事は栄養だけを考えて作られたどれも同じ味同じ見た目の物だったため、料理というのは初めて目にするものだった。


「これは何という料理なんだ?」


スピカがそう聞くと、全員が驚いた表情になった


「こっちがトーストで、こっちは目玉焼き、これがサラダで、最後のがスープだけど…見たことないの?」


「初めて見たな」


「マジっすか…」


「結構一般的な食事だと思うんだが…空から降ってきた原因を覚えていないことといい、もしかしたらスピカが気づいていないだけで何かなくなっている記憶があるのかもしれないね」


アークの話を聞いて二人はなるほどと納得する。


どうやら都合のいい勘違いをしてくれたようだ。


これからも困ったら記憶がないことにしよう、とひそかにスピカは考える。


そう考えながらスピカは初めて見る料理を口に運ぶ。


初めて食べる、味のする料理は衝撃的でスピカの思考を一時的に奪うほどの物だった。


スピカが無心で料理をほおばっているとアークが口を開いた。


「とりあえず、朝食を食べ終わったらスピカには仕事の説明をしようか」


「…ンッ…よろしく頼む」


どうやらさっそく仕事を教えてもらえるらしい。


魔道具師なんてスピカの星にはなかった職業である。


これから始まる未知の話に興味が尽きないスピカだった。


♢♢♢


店舗一階


作業スペースに降りたスピカとアークを待っていたのはネコ型のアンドロイドだった。


『すみません、スピカ。少し街を見ておきたかったので離れていました』


「いや、離れたということは、安全だという確信があったのだろう?なら構わないさ」


スピカはレグルスの謝罪に対して何でもないように返す。


「その猫は…スピカ、君の使い魔かい?言葉を話せるなんてずいぶん知能が高いんだね」


使い魔という言葉を聞いてスピカは事前調査の結果を思い出す。


そういえば、この星には魔法があって人との魔法的なつながりを持った生物を使い魔というのだった。


「言葉を話す使い魔というのは珍しいのか?」


「たまに見かけるけど、珍しいな。言葉を話せる生物は知能が高い分、プライドがたいことが多くて人に従うことを嫌う傾向があるから」


「なるほど」


どうやら、珍しくはあるがいないわけではないらしい。


ならばレグルスのことに関してはあまり気にしなくてもよさそうである。


「使い魔と再会できてよかったね、もしよかったら、あー使い魔君…」


『あっ、レグルスです』


「…レグルス、も仕事の説明を聞くかい?」


『ぜひ、お願いします』


「わかった、じゃあ説明を始めようか」



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