第44話 無間の闇


 

 タタラの突きが放たれるのとほぼほぼ同時に、呪言鎖縛とジルの冬虫夏草が砕け散った。

 

 その瞬間、烈火の焔が顔を出す。

 

 獰猛極まりない表情を浮かべた灼熱が、周囲の全てを灰塵に帰そうと牙を向いた。

 

 生命力を使い果たし枯れ枝のようになったジルが崩れ落ちる。

 

 エルが恐怖で顔を強張らせる。

 

 そんな中、タタラの眼だけは鈍色に輝き、灼熱の核を見据えていた。

 


 ドンッ……!!

 

 鈍い爆発音がした。

 

 しかし不思議と爆風は感じられない。

 

 それどころこか、風は辺りから吸い寄せられるようにして、爆心地へと向かってそよぐ。

 

 エルは見た。

 

 業火の怪物が、みるみるうちに何も無い闇へと飲み込まれていく瞬間を。

 

 エルは見た。

 

 業火の怪物が去った後にほんの僅かに残った、黒よりも暗い無間の闇を。

 

 タタラはため息をついて刀に目をやる。

 

 その切っ先は、技を放つ前よりも心なしか短くなっているように見えた。

 

 パチン……と鍔鳴りがして、刀は鞘へと納められる。

 

 それと同時にタタラはぐらりと体制を崩し、何も言わずに地に倒れた。

 

 

 

 タタラ……!! タタラ……!!

 

 しっかりして……!!

 

 タタラ……!!

 

 

 

 意識の彼方でエルの声が聞こえたが、それもやがて深い闇に飲み込まれ、タタラの意識はそこで途絶えた。

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