第43話 歪な黒い閃
刹那、タタラとジルの魔力に覆われたダイナムの魔力が炸裂した。
魔力の壁を突き抜けて、突風のような衝撃波が放射線状に広がる。
あまりの衝撃にエルはタタラに強くしがみついた。
でも……この程度なら村は大丈夫だよね?
エルがそう思った時だった。
タタラは前を見据えたまま、大声でエルに叫ぶ。
「油断すんな……!! 本命が来るぞ……!!」
タタラの言う通りだった。
衝撃波で瞬間的に発散させられた空間が、真空となってあたりの空気を呑み込みにかかる。
爆縮……
爆心地に向かって四方八方から吹き荒ぶ暴風を貪欲に吸収し、ダイナムの爆炎は大きく大きく育っていった。
「ニルワナの神よ……!! 我に力を……!!」
ジルが大地に伏して高らかに言う。
するとジルの身体に生えた植物たちが、みるみるうちにジルの体内に根を張り巡らせた。
「ぐぅぅぅぅぅっ……!!」
それに比例してジルの身体が萎れていく。
緑だった植物は、その葉脈を赤く染め始め、タタラは禁呪の本質を理解した。
「ジル……!! まさか血を……!?」
「そうだ……!! たとえ我が身が朽ち果てようとも、一向に構わん……!! やれ……!! 冬虫夏草!!」
赤く染まった蔦や蔓が、メリメリと音を立てながら大樹のように膨れ上がった。
「すごい……!! これなら!?」
「まだだ……!! 爆風と炎を抑えても、この大量の熱をなんとかしねえと……!!」
タタラはびっしょりと汗に濡れている。
いつの間にかサウナのような暑さが、一帯に広がっていた。
「ジルが命を賭けたんだ……俺も命の一つでも賭けねえとな……」
タタラは呪言鎖縛の鎖から手を離し、魔力の供給を止めた。
かわりに腰の刀を抜くと、肩の上に構えて切っ先を爆心地に向けて覚悟を決める。
「エル……!! 俺も生命エネルギーを魔力に変換する……!! 俺が身動き出来なくなったら、回復できるか?」
「任せて……!! じゅる……」
最後の音が気になったが、タタラは考えるのをやめた。
ちらりと視線を横に向けると、枯れ木のように萎びたジルが、なんとか、か細い呼吸を維持していた。
「体力でも寿命でも……なんでも持っていきやがれ……!! 重力魔法✕名刀
身体から力が抜けていく。
まるで全身の血が流れ出すような感覚だった。
それでもタタラは足を踏ん張り、力強く大地を蹴る。
「纏一刀流……!!
タタラは魔力の中心めがけて、禍々しい闇を纏った突きを放つ。
それは歪な黒い閃。
空間を歪め、時空さえもすり抜けるように曲がりくねって伸びる一条の闇が、静かに爆心地にたどり着いた。
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