第41話 盗賊王
「すごいよタタラ……!!」
エルはぴょんぴょん飛び跳ねながらタタラに駆け寄った。
見るとタタラの足元には重力魔法で引き寄せたジルや戦士たちがうずくまっている。
すごい……!! あの一瞬の間にみんなのことも助けるなんて……!!
エルは改めてタタラの背中を見つめた。
トクン……
身に覚えのない小さな鼓動が、胸の奥に芽生えるのを感じる。
同時に耳がかぁーっと熱くなり、飛びつこうと思っていたのに出来なくなってしまった。
「マジかよ……」
タタラの声でエルは我に返り、晴れていく爆煙の奥に目をやった。
「ふー……ふー……ふー……!!」
焼け焦げたダイナムが白煙を吐き出しながら立っている。
怒りに満ちた眼。
その奥に見え隠れする邪悪な気配。
まだ力を隠し持っている……!!
タタラの頬に冷や汗が伝った。
クールタイムが無くなったとはいえ、今度は純粋に魔力量が問題になってくる。
あと大技一発……
中級魔法なら五発ってとこか……
タタラは刀を構え直し、次の一手を思案する。
その時ダイナムが大きく息を吸い込んだ。
来る……!!
タタラが攻撃に備えると、ダイナムは大声で叫んだ。
「撤収ぅぅうううううううう……!! 総員撤収ぅうううううううう!!」
予想外の展開にタタラの緊張はむしろ増大する。
何を企んでる……!?
ダイナムは指を加えると、ぴぃいいいいいいいい……!! と甲高い指笛を鳴らした。
同時に大地が小刻みに振動し、ダイナムの足元がメリメリと盛り上がっていく。
ずぼぼぼぼぼ……ずぼぼぼぼぼぼぼ……!!
「何だコイツは……?」
それは巨大なミミズの化け物だった。
ダイナムは巨大ミミズの頭に座りタタラ達を見下ろして言う。
「タタラとか言ったな……? おめえは絶対おいらが殺す……ここの神もいずれいただく……チンケな正義を振りかざしてセントラルドグマに楯突いたことを、おめえは心底後悔することになる……!!」
「後悔はしねえよ……!! アダムスに伝えろ……!! 人々から奪い取るのがお前のやり方なら、逆にお前の全てを分捕ってやるってな……!!」
「てんめえぇええ……!!」
「俺は盗賊王……!! タタラ・ギンジ……!! 悪党からは遠慮なしに奪い盗る!!」
ダイナムはギリギリと歯を食いしばると、ふぅぅぅぅぅ……と息を吐いて言った。
「ふん……いいだろう。これはおいらからの餞別だ。有り難く受け取れ」
ダイナムは懐から一本のダイナマイトを取り出すとそれを上空に放り投げた。
「俺の魔力を丹念に込めて作った特別製だ。正義なんだろ? 守ってみろよ……! じゃあな! 盗賊王……!!」
化け物ミミズはダイナムを飲み込み、地中深くに潜っていく。
「あの野郎……!!」
タタラは残りの全魔力を込めて両手を伸ばした。
「全魔力を注ぐ……!! 重力魔法……呪言鎖縛……!!」
両手から呪詛の鎖が迸る。
超重力の鎖はちっぽけなダイナマイトから半径十メートルほどの空間に絡みつく。
「何でダイナマイトに巻き付かないの!?」
異常を感じたエルが叫んだ。
「込められてる魔力が膨大すぎる……!! あいつの魔力量はどうなってんだよ!?」
「でも、ブラックホールの鎖なら飲み込めるよね?」
「いや……本物のブラックホールとは違って許容量が限られてる……だがやるしかねえ……!! エル!! 俺の後ろに……!!」
その時ダイナマイトが炸裂した。
タタラの呪言鎖縛で時空が歪む。
しかしゆっくりゆっくりと、爆風は呪言鎖縛の内側を満たしていった。
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