第38話 初物


 タタラはエルの言葉に驚き目を見張った。


「治せるのか!?」


「うん。でもそのためにはしてもらわなきゃダメなことが……」


 エルは頬を赤らめてうつむき加減に言った。


「何をすればいい!?」


 タタラがエルの両肩を掴んで尋ねると、エルは覚悟を決めたように真っ直ぐタタラを見つめて答えた。


「そのまま……グワッと……!!」


「グワッと?」


「グワッと……ぶっちゅーを……!!」


「?!?!? はぁあああああ!?」


「一思いにヤッちまってくだせえ!! ちなみにエルの唇は初物ですぜ!?」


 唇をすぼめて目をつむり、エルは待っている。


「ファーストキスと言いなさい!! じゃなかった……こんな時にふざけてんのか!?」


 タタラが叫ぶとエルは目をつむったまま答える。


「ふざけてないよ? 魂と肉体の調和をとるためには絶対必要なことなの。本当は産まれた時にお母さんがするんだけど……エルは聖女だから代わりに出来るの!!」


 マジか……お、お、お、俺も初物なんだが……!?


 美少女とキス……


 じゃなかった……!!


 チュウわ……いやいやいや……調和をとるための……


 じゃなくて……!!




「オッパ……!!」

 

 タタラがほとんどパニックになりかけていたその時、背後から悲鳴が聞こえた。


 咄嗟に振り返ると戦士の一人が黒焦げになってどさり……と地面に倒れ込むのが見える。

 

「ぶあははは!! あと三人だな!?」

 

 戦況は進展し、ダイナムは新たな魔法を展開していた。

 

 それと同時に身体を包む魔力も、じわじわと大きくなっていく。

 


 クソ……!!

 

 なんて魔力量してんだよ!?

 

 

「ええい……!! オッパの仇……!! 風魔法!! 突風突き……!!」


 パイパイは突風に乗り槍を抱えて突撃した。

 

 しかしダイナムは難なくそれを躱し、ボムナックルではたき落とす。

 

「あばげっ……!!」

 

 パイパイは無惨に折れ曲がり、地面に激突した。

 

「あと二人ぃいいいい!!」

 

 タタラは惨状を目にして覚悟を決めた。

 

「エル……!!」

 

「は、はいっ!?」

 

「よろしくお願いします……!!」

 

 掛け声とともにタタラはエルに口づけた。

 

 エルは一瞬驚いた表情を浮かべたが、やがて目を閉じ、柔らかくタタラを受け入れるのだった。

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