第36話 守るべきもの
そのころエルは負傷した戦士たちの傷口に唾をつけて回っていた。
「はい! もう大丈夫ですよ? 痛いの痛いの飛んでった〜!」
「「「飛んでった〜!」」」
三人の戦士たちの千切れた手足は、どういう原理か元通りくっついている。
しかしその代償は大きかったようで、彼らは骨抜きになってしまったようだった。
「さ! タタラを助けに行くよ!?」
「「「アイアイサー!!」」」
それを遠くから見ていた戦士たちの妻は、着物の裾を噛み締めて怒りの表情を浮かべている。
その時母たちと一緒に様子を見ていた戦士の息子の一人が何気なく呟いた。
「あのお姉ちゃん可愛いね!?」
「「「なんですってぇえええ!?」」」
一斉に向けられた母たちの鬼の形相に度肝を抜かれた少年は慌ててそれを否定して木の影に身を隠すのだった。
*
「おいモタモタしてていいのか?」
ダイナムは魔力を溜めながら不敵に笑って言った。
「おいらの爆裂魔法は溜めた時間に比例して爆発力を増す!! ビビって攻めてこない間に、どんどん威力が増えていくぞ!?」
「この外道が……!! 爆発前に我が息の根を止めてやる……!!」
いきり立ったジルをタタラが止める。
「待て……!! わざわざ奴が仕組みを教えたのは攻撃を誘うためだ……!! 本音は村を消し飛ばしたくないはず……!! 挑発に乗るな……!!」
「止めるな!! しょせん貴様も部外者……村よりも命が大切なのだろう……!? だがこの村には命に代えても守らねばならぬモノがある……!!」
「守らねえといけねえってのは家族や仲間のことだろ!? 皆で逃げればいいだろうが!?」
タタラがジルの肩に手をかけると、ジルは振り向き小さく囁いた。
「違う……家族は我の命より大切だ……だが……この村の戦士である以上、家族よりも大切なものがある……」
「何だと……?」
「セデック・バレーの戦士が守るべきもの……それは村のご神木に宿るニルワナ神だ……」
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