第35話 ジルの魔法

 

 ジルがタタラの前に出るとダイナムは驚いたような表情を浮かべて吹き出した。

 

「ぷっ……!? お前、さっきおいらに手も足も出なかったくせにまだ戦うのか!?」

 

「見くびるなデブ」

 

「で、デブぅ!?」

 

 ジルは両手で掴んだ槍を地に刺し魔力を込めて言った。

 

「さっきは槍術のみだったが、今度は我の取っておきを見せてやる……!! 精霊魔法……!! 波打つ大地に乗る者サンド・サーファー!!」

 

 ジルを中心に大地が大きく波打った。

 

 ダイナムは波打つ大地に足を取られ思わずよろけてしまう。

 

 ハッと気づいた時には大地の波に乗ったジルが槍を構えて目前に迫っていた。

 

「小癪な!! 大地を操る魔法か……!? でもおいらは鉱山ギルド長!! 土の扱いには慣れてる!!」

 

 ダイナムは波のタイミングに合わせて飛び上がり、ジルの槍を躱すと両手に魔力を集中して叫んだ。

 

「爆裂魔法!! 衝撃波パン・デミック!!」

 

 叩き合わせた両の手の平から衝撃波がほとばしった。

 

 衝撃波はジルを吹き飛ばし、大地の波も打ち消してしまう。

 

「今度こそ粉微塵なれ!! 爆裂拳ボムナックル!!」

 


 岩を粉々に砕いた炸裂する拳がジルに迫る。

 

 空中じゃ大地の魔法は使えないんじゃ……!?

 

 タタラがそう思って駆け出そうとするのをジルが制した。

 

「来るな!! 魔力を溜めておけ!! 我の魔法は大地ではない…………!! 絡みつく緑の悪魔デビル・アイビー……!!」

 

 ジルは槍を木に投げ叫んだ。

 

 すると槍の刺さった木が瞬く間に成長し、無数の蔓となってダイナムに襲いかかる。

 

「なにぃいい!?」

 

 蔓に覆われたダイナムの拳が炸裂した。

 

 弾け跳んだ蔓の檻から煙にまみれたダイナムが落下する。

 

「どうやらおぬしの出番はなかったようだな。タタラ……」

 

 ジルがそう言って振り返ったその時だった。

 

 強烈な衝撃がジルに直撃し、ジルは岩に激突する。

 

「ぐはっ……!? 馬鹿な……!?」

 

 見ると衣服が破れすすだらけになったダイナムが怒りの形相で立っている。

 

「この野郎……よくもおいらの大事なヘルメットを……」

 

 タタラが見るとダイナムのヘルメットが光を放っていた。

 

 その光が収束すると同時に、ヘルメットは粉々に砕け散る。


「あれは……!?」 


「レガリアか……迂闊だった……」

 

 よろよろと立ち上がったジルが静かに呟くと、ダイナムは鼻息荒く地団駄を踏む。



「まさかおめえみたいな田舎もんにレガリアを壊されるなんて思ってもみねえ……!! この代金はお前らの命で弁償してもらうぞ……!?」


 まるで怒りと呼応するようにダイナムの全身が、凝縮した魔力で強く輝きはじめた。

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