第30話 食人族のジル
「うーん!! スッキリ!!」
エルは大きく伸びをしながらそう言った。
え?
なんも変わらんくね?
困惑するタタラをよそに、頭骨男も村長も満足げに頷いている。
「おい? ほんとに治ったのか……?」
思わず尋ねたタタラにエルがピースサインを顎に当てて言う。
「バッチリだよ? まだ少し火照ってるのは……タタラのお顔が近いから……かな?」
駄目だ……
区別がつかん……
タタラはなかばヤケクソ気味に治ったと信じることにした。
「世話になったな。俺はタタラだ」
そう言って手を出すと、頭骨男は被り物を脱いで手を差し出した。
引き締まった身体と赤褐色の肌。
被り物の下からは癖のある長い黒髪と精悍な瞳が顔を出す。
「我が名はジル・バーサーカ・ティンポッポ。皆からはティンポと呼ばれている。礼には及ばない」
イケメンが台無し……
そう思いながらタタラはジルの手を取った。
「ジル。村長。折り行って話があるんだが……」
タタラは少し悩んでから意を決して切り出した。
「ティンポだ。折り行って頼みとは何だ? タタラ」
「実はついこの間、ニアレスト王国を反乱軍が制圧した。反乱軍はニアレスト王にあらぬ罪を着せて新たな王国を立ち上げたんだ」
「ニアレスト王なら我らも知っている。嘘か真か平和な国だという。事実ニアレスト王が国を収めるまでは王都は最低の掃き溜めだったと聞く……」
「ああ。それは本当だ。詳しくは話せないが国の聖女とニアレスト王が民に模範を示して平和な国を造った。だが今や王もその聖女もいない。このままじゃ再び国が荒れる!!」
ジルは腕を組んで考え込むと静かに口を開いた。
「話が見えない。タタラ。おぬしの頼みとは何だ?」
「……俺は今、新王を倒すための勢力を集めてる。セデック・バレーに住むあんた達も力を貸してくれないか? 正義の為に……!!」
タタラはまっすぐにジルの目を見て言った。
するとジルは目を丸くしたかと思うと大声で笑って答える。
「何を言うかと思えば!! 正義のため!? ハハハ……!! なぜそんなもののために我らが命を賭けねばならん!? ここは辺境の村セデック・バレー!! 前王もニアレスト王も関知しない忘れられた村だ!! 新王とやらも見向きもしないだろう」
ジルは頭骨を被り直すとさらに低い声でこう告げるのだった。
「それに……我らは食人族……!! おぬしらの正義とは相容れぬ正義を持っている……!!」
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