第29話 偉大なシャーマン



 頭骨男の後について二人はセデック・バレーの村を進んだ。


 高床式の木で出来た小屋から、女子供のが物珍しそうにこちらを覗いている。


 エルはそんな彼らにヘラヘラと手を振りながら、愛想よく笑っていた。



 毒にやられてるようには見えないんだが……



 タタラがそんなことを考えていると、頭骨男は村長の家の前で足を止めた。


「ここに我れらの村長が住んでいる。彼は村長であると同時に偉大な霊媒師シャーマンだ。解毒剤は彼しか作れない。ニルワナ神の加護の有無も、彼ならお見通しだろう」


 頭骨男はそう言うと二人に小屋に入るように手を差し出した。


 促されるまま二人が中に入ると、奥の暗がりに痩せこけた老人が座っていた。

 

 囲炉裏のような焚き火台からはモクモクと煙が上がり、円錐状の小屋の天井に充満している。

 

「よしゅ、げほ、おでぃでうぃ、げほ、なしゃしゃな……!!」

 

 聞き慣れない言語に二人が戸惑っていると頭骨男が耳打ちした。

 

「よくおいでになったと仰っている……通訳しよう」


 なるほど……歯が抜けて滑舌が悪いわけか……


 タタラは注意深く村長の言葉に耳を傾けた。 


「しゃしゃしわ、げほげほ、しゃしゃっしぇ、げほ、しゅしゅ。ししぇしゅがらびっためんとんれ!!」


「ワシはンヌルマです」 


 んんんん!?

 

「でんどろびっかぬま、ほれ、ささいれぞ、くん、ぼっかえんど、馬鹿め」

 

「覚性豆を食うとは馬鹿め」

 


 馬鹿め……?


 タタラは思わず聞き返しそうになる。



「ぬごろっびっちょびちょ、ぬれぬれ、びんびんびんーん、ほんまそれ、いいやん、うっらやまし〜」

 

「これが解毒剤だ」

 

 

 もはや文字数が合わないのはデフォルト……

 


 そう言って差し出されたココナッツの器に入った乳白色の液体をエルは躊躇いなく飲み干した。

 

 止める間もなく行われたエルの行動に、タタラは思わず声をあげる。

 

 

「知らない人から出された物を、何の断りもなく飲むんじゃありません!!」

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