第28話 ニルワナ神

 

 その声で男たちの殺気が緩むのをタタラは感じた。

 

 しかしタタラは警戒も右手の魔力も緩めることはなかった。

 

 それでも頭骨男は構わず仲間の説得を続ける。

 

「この娘は覚性豆ビンビンビーンの毒気に当てられている!! 早く解毒剤を飲ませないと大変なことになる!! 我を信じてくれ!!」

 

 皆の視線がエルに集まった。

 

 それに気づいたエルはと笑って手を振って見せる。

 

 すると男たちはソワソワしながら小声で相談を開始し、やがて全員で頷き合った。

 

「旅人達……すまなかった。おぬし達を食わんと約束しよう……」

 

「やっぱり食うつもりだったのか!?」

 

「……」

 

 なおも警戒を続けるタタラにエルが耳打ちする。

 

「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ?」

 

「エルは知らねえかもしれねえが、この世界に善意は存在しねえ……」

 

「大丈夫だよ! エルがついてるんだから!」

 

 そう言ってエルはぴょんぴょんと村の中に跳ねていった。

 

 

「お、おい!?」

 

 慌てて声をかけるタタラにエルが笑いながら叫ぶ。

 

「早く早く!!」

 

 タタラは仕方なくエルを追って村に入った。

 

 すると頭骨男が声を掛けてくる。

 

「すまなかったな……」

 

「何で俺達を助ける? 一体何を企んでる?」

 

 タタラは被り物の奥で光る男の目を見て言った。

 

 すると男は腕組みして考え込むように答えた。

 

「それが……我にもわからんのだ……初めは良い獲物を見つけたと思ったのだが……いつの間にかそんな気が失せてな……覚性豆の湯気を見た時には助けてやらねばと思い、身体が勝手に動いていた……」

 


 それってまさか……

 

 タタラはエルの言葉を思い出し前方ではしゃぐエルに目をやった。

 

「おぬし等にはニルワナ神の加護があるのかもしれん」

 

「ニルワナ神?」

 

 思わず聞き返したタタラに頭骨男は頷いた。

 

「我々の崇める狩猟の神だ。だがニルワナ神は狩りをしない。得物は自ら心臓を差し出し神への供物となる。それこそが我々の求める最も崇高な狩りの姿だ」

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