第二章 世直し二人旅
第25話 タタラとエルの物語
「タタラ様! まずは何処に向かうのですか?」
エルモアが小首をかしげて見上げる。
水色の髪が風になびき、エルモアの鼻先をくすぐったので、エルモアは髪を掻き上げ耳にかけた。
小さな可愛らしい耳が露わになると、タタラは思わず視線を逸らして言った。
「ま、まずは辺境の町、セデック・バレーに向かう。このホルス山脈を超えた谷間に位置する小さな町だ」
「承知しましたわ! こう見えて体力には自信があります! 特に夜戦においては絶対の自信が……!!」
「いや……聞いてない……それよりエルモア!! その上品な喋り言葉とタタラ様はこの先禁止だ。どこで足がつくかわからねえ。もっとこう……自然な感じで話せないか?」
エルモアは頬に指をあててしばらく考え込むと、キラキラの笑顔を向けてタタラに言った。
「わかった! そのかわり、タタラもエルモアって呼ぶのは禁止! わたしのこと、これからはエルって呼んでね?」
前かがみになりエルモアは上目遣いで言った。
いたずらっぽく「ニッ」と笑う彼女を見て、思わずタタラの頬が紅く染まる。
「あ? 紅くなってる〜?」
一気に距離を縮めてエルはタタラの頬をつつこうとして人差し指を出す。
タタラはそれを払いながら言った。
「な、なってねえよ!! 行くぞエル!! 暗くなる前になんとか下山したい」
「ラジャー!」
そう言って二人は歩き出した。
タタラの腕に抱きついてエルが言う。
「タタラとエルの物語の始まりだね? わたしたちの関係はどうする? やっぱり夫婦!?」
「兄妹だ……その手を放せ……」
「死んでも放さん!!」
怒った顔でエルはタタラを見上げて頬を膨らませる。
「いや……お前が言うとマジで怖えわ……」
しばらくそんなことを繰り返しながら歩いていくと、周囲の植物はさらに減り、高山植物がまばらに生える程度になってきた。
気温も下がり、それに伴って目に見えてエルの元気が無くなってくる。
「ねえタタラ……クンカクンカさせて? ここ標高が高くて酸素が薄い……」
「俺の頭はマリモじゃねえ! 酸素濃度も一緒だ! それに標高はそれほどじゃねえよ……ホルス山脈の特殊な磁場が酸素と魔素を弱めるんだ……」
タタラも若干の息苦しさを覚えながらそう答える。
「そうなんだ……はぁはぁ……タタラの頭に鼻を埋めてクンカクンカ……はぁはぁ……シャツに潜り込んでクンカクンカ……はぁはぁ……興奮したタタラがわたしの〇〇に顔を埋めてクンカクンカ……きゃあああああああああ///////」
呪詛のような独り言に耐えかねてタタラはエルを抱き上げると、重力魔法を発動し風に舞う羽根のように山頂へと駆け上がっていった。
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