第20話 陰謀が茫々


 

「流石だなマリア……」


 弓を背中に背負い直して男は言った。


「当然でしょ? 最初からこうしてればよかったのよ」


「王の意向だ。民に不信感を抱かせず周到に準備を進める……」


「ハイハイ。アダムス陛下の仰せのままに」



 二人が玉座の間に出向くとアダムスが上機嫌に出迎えた。


「サイファー! マリア! 志願兵の首尾はどうだ?」



「それがおかしな奴が潜り込んでた」


「私の洗脳魔法に気づいて脱走した奴がいるのよ」


 その言葉を聞いたアダムスは表情を変えて低い声で問う。


「殺ったのか?」


「俺の矢で射抜いたが生死不明だ。今死体を探してる」


「そうか……お前の矢で死なないとなればなかなかの手練れだな。早くも我々の存在に疑問を持つものが現れたということか……」


「どうするの? 捕まえられさえすれば私の魔法で情報は抜き放題だけど……」


 アダムスは立ち上がると玉座の前を歩き回った。


 軍刀の柄を叩きながら思案にふけると、やがて何かを思いついたようで静かに口を開く。


「民を使おう。我々に反抗するものは全員、前ニアレスト王支持者で国家反逆罪とする。残党の情報を売ったもの、捕えたものには褒美を出す。ただし報奨金は生け捕りにした場合に限る。この内容でお触れを出せ!!」


 サイファーは懐から皮の手帳を取り出しその内容を書き留めるとパタンと閉じて言った。


「それで手配しよう。各地に散った他の隊長達はどうする? 一旦呼び戻すか?」



「いや……計画は続行する。出来事だけ共有しろ」


「ま、あんた以外にこの世界でこんな大それた計画を考えつく奴なんていないさ。ニアレスト王の残党で間違いないだろう」


「同感ね。大局よりも目の前の小金に目が眩む馬鹿ばかりだもの。三年間ずっと準備してきた私達に敵う相手なんていないわ」



「ああ。だといいがな……」

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