第17話 ネグリジェと春風


 

 タタラとサンボが別れたすぐ翌朝のこと、王都の外れの森から一条の煙が立ち上った。

 

 ウトウトと眠りかけていたダリィだったが、それを見るなりすぐにそのことをタタラに報告する。

 

「タタラさーん!! サンボさんから狼煙が上がりました!!」

 

「なに!? 早すぎるだろ!?」

 

 タタラは慌てて寝床から起き上がろうとするも首に何かが巻き付いていてうまく起き上がれない。

 

「!?」

 

「むにゃむにゃ……あっ……タタラ様おはようございます……?」

 

 見ると水色のネグリジェに身を包んだエルモアがそこにはいた。

 

 眠そうに目をこすりながらニッっと笑顔を見せるエルモアにタタラは悲鳴にも似た声を上げる。

 

「なんでてめえが俺の寝床にいるんだよ!?」

 

「聖女と言えど、盗賊団のアジトで独り寝なんてできませんわ……でも……タタラ様のためなら聖女から性女への転職もやぶさかでは……」

 

 頬を染めてタタラの胸に人差し指で何かを描きながらエルモアが言う。

 

 呪いのスペルとかじゃねえだろうな……?

 

 タタラは突っ込むのも忘れてそんなことを考えながらそっとその手を払った。

 

「ああん……あと少しでしたのに……」


 おいマジかよ……


 顔を引き攣らせながらタタラは思う。


「タタラさん!! そんなことより!!」


「そうだったそうだった……すぐに向かう!!」



 洞穴を出るなりタタラは指笛を吹いて叫んだ。


 しかしその声に反応するものはない。


「ベヒモス!! どうしたんだ!? あ……」


 ついいつもの癖で呼んだベヒモスはもういない。


 森で別れてアジトに戻ってすぐ、タタラはベヒモスを探しに戻ったが消息はつかめなかった。

 

 当然アジトにも戻ってはいない。


 ベヒモスは風のように消えてしまった。

 

「愛想尽かされちまったんだったな……」

 

 タタラはぼそりと呟くと畜舎から適当な人面蝗ヘルローカストを見繕い、その背に跨って狼煙の下へと向かった。

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