第15話 君をのせて

 

「それじゃあ……皆様ものために?」

 

 エルモアは目をパチクリさせて盗賊団達を見渡した。

 

「へへへ……オレらは最悪のにこき使われてたのを、タタラさんに救ってもらったんだ!!」

 

「おうよ!! あのクソダル豚から救ってくれたタタラさんは俺達の英雄なんだ!! 読み書きや、戦術なんかもタタラさんが教えてくれたんだぜ!?」

 

「だから盗賊団の名前も改めたのさ!! タタラさんの名前と、罪人を囚える地獄の使者の名前をかけて盗賊団になったんだ!!」

 

 

「やめろお前ら……小っ恥ずかしい……」

 

「素晴らしいですわ!! やはりタタラ様は悪の仮面を被った義賊!! 正義の名のもとに悪で悪に報いるダークヒーロー!! 大好物ですわ……!! ぶひっ……失礼……変な声が出ましたわね……」

 

「タタラさん……この女……つらは可愛いけどちょっとやばくないっすか……?」

 

「ああ……相当の曲者だ……さて、こいつをどうしたもんか……」

 

 タタラとサンボが小声で話しているのを耳をダンボにして聞いていたエルモアは切り株の上に立ち上がって声高に言う。

 

 

「どうもこうも!! 今の話を聞いて確信しました!! わたしとタタラ様の出逢いはまさしく運命ですわ!! わたしは聖女エルモア!! 何を隠そうニアレストの治安はわたしから滲み出る浄化の波動で保たれていたのですわ!!」 


「なんだとぉお!?」


 タタラが前のめりになって叫ぶとエルモアは片足を曲げ、指先を頬に当てるとびっきりの決めポーズで言った。


「ふふん♪ おわかりになりましたか? タタラ様はこのわたしを、お……およ……およべぎ……にすぎゅ運命でしゅわっ!!」


「いや……噛みまくりで肝心の部分が聞こえん……」



「とにかく!! これからタタラ様とこのタンタラス盗賊団が成そうとする世直しには、わたしとタタラ様の結婚が絶対不可欠なんです!! 絶対ったら絶対一緒に行くんだから……!? ぐすっ……」



 あ……可愛い……


 顔を紅くして目尻に涙を浮かべて頬を膨らますエルモアの姿に、思わずその場にいた全員の表情が緩む。

 

 しかしタタラは我に返って頭を振った。

 

「駄目だ駄目だ!! 騙されねえぞ!? みんなよく考えろ!! しれっと絶妙におかしなことを言ってる気がする!!」

 

「まあでも……アジトの他に連れて行くあてもないし……それにタタラさん……呪言魔法使ってヘロヘロじゃないっすか……? これ以上の無理は……」

 

 サンボが真面目な顔で小さく呟くとタタラは右手で額を押さえ、諦めたように言った。

 

 

「ああそうだよ……クソ……野郎ども一旦アジトに帰るぞ……!! 聖女も連れて行く……」


 その言葉で顔を輝かせると、エルモアはタタラに飛びついた。


 タタラはげっそりとした表情で予備の人面蝗ヘルローカストに跨ると、盗賊団を率いてアジトへと戻るのだった。

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