第12話 逃避行


 

「ヤバい……!! 一旦逃げるぞ……!!」

 

「でも……お城にはまだ……!?」

 

「命が先決だ!!」

 

 タタラは自身にかかる重力を軽減して屋根を蹴った。


 羽根の様に舞い上がったタタラとは対照的に、黒鉄の塊のようなベヒモスが地を蹴って二人の後を追う。

 

 次々と家屋が瓦礫に変わっていくのを見てエルモアはたたらの胸を叩いた。

 

「このままでは王都がめちゃくちゃになってしまいます!!」

 

「誰のせいでこうなったと思ってんだ!?」

 

 吠えるタタラを見てエルモアは頬を染めながらそっぽを向く。

 

「知りません!」

 

 あ……可愛い……

 

「そうじゃねえぇええええ!! 騙されるな俺!!」


 その時前方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 目を凝らすとタンタラス盗賊団の仲間たちが城壁を制圧して手を振っている。


「お頭ぁああああ!! 何で戻ってきてるんすかああああああ!?」


「お前ら!! いい所に来た!! 麻酔弾ありったけ用意しろ!!」


「麻酔弾? おい麻酔弾なんて何に使うんだ?」


 サンボは隣にいたダリィの方を向いて首を傾げた。


「あれじゃないっすかね?」

 

 ダリィが指差す方に視線を移すと、怒りの権化と化したベヒモスが、ちょうど建物を突き破って姿を現すところだった。

 

「げぇ!? 総員……!! 麻酔弾用意!!」

 

 サンボの合図で石火矢のような筒状のレガリアを構えた部隊が前に出た。

 

「発射!!」

 

 彗星のように煙の尾を引いて、麻酔弾がベヒモスに襲いかかる。

 

 命中した麻酔弾は炸裂し、キラキラと光る緑青りょくしょう色のガスを辺りに撒き散らした。

 

 タタラはサンボの隣に着地するとガスで煙る視界に目を細める。

 

「やったか……?」

 

「バル……」

 

 ばる……?

 

「バルバルバル……」

 

「総員……避難準備……」

 


バルバルゴラァアアアアアアアアアダーリンから離れろぉおおおおお!!」

 

 こうしてタンタラス盗賊団はエルモアを連れて一目散に王都から撤退した。

 

 そしてこれは後に ”タンタラス盗賊団ニアレストの聖女誘拐事件” として広く世に知れ渡ることとなるのだった。

 

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