第7話 燻銀のタタラ


 

 ”燻銀いぶしぎんのタタラ”

 

 それがここファンタジアで付いた俺の通り名だった。

 

 三年前……

 

 何の因果か俺は現世で死ぬことになった直接の原因を作った男 ”薄情のダルトン” の身体に転生した。


 薄情の通り名に恥じないクソ野郎だったらしく、おかしらの突然の変化に、子分たちが泣いて喜んだあの光景はいまだに忘れられない。



 *



「だ・か・ら!! 悪いことはするなって言ってるんだよ!! そんなことしたらどんどん自分たちの価値が下がる!! 社会に嫌われちまったらますます生きにくくなるじゃねえか!?」


「た、大変だ……おい野郎どもお頭が狂っちまった!! なことを言ってるぞ!?」

 

「嘘だ!? あの超絶ブラックの化身、気に入らない奴は部下でも殺す、薄情の権化、陰ではクソダルとんと言われてたお頭が真っ当なことを言うはずねえ!!」

 

 クソダル豚……ww


 めちゃくちゃ嫌われてんじゃねえか……

 

「俺は鑪吟詩たたらぎんじ。お前らのお頭のダルトンとかいう奴じゃねえ!!」

 

 タタラが覚悟を決めて正直にそう言うと、皆は顔を見合わせて万歳して叫んだ。

 


「うおぉおおおおおおおお!! やったぁぁあああああ!! ブラックからの解放だ!! 行くぞ!! 略奪だ!! ついに可愛い娘ちゃんをこの手に!!」

 

「あのダルブタ、上玉は全部自分の手籠めにして、異常玉ばっかり寄越しやがって……」

 

「肉だ!! 酒だ!! 女だぁああああ!!」

 

 

 その様子を見たタタラの中に、遥か現世に置いてきた正義の心が蘇る。

 

 その燃えるような激情は、ダルトンの身体に秘められた膨大な魔力と呼応しあい、気付いた時には一つの言霊が口を衝いていた。

 

「動くなぁああああ!!」

 

 タタラを中心に広がった声の波動。

 

 それに触れた瞬間、統率を失った子分たちが地面に押さえつけられる。

 

 

「こ、これはお頭の重力魔法!?」

 

 

「てめえらは今日から俺の子分……いや部下だ!! 今を以て悪事の一切は禁止する!!」

 

まとめ役の頭を踏みながらタタラが宣言すると、地面に磔にされた盗賊達は悔し涙を流して呟いた。

 

「もっとブラック来たぁぁあああ……」

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