第5話 王族を逃がすな

 

 魔獣ベヒモス。とはいえまだ幼体だが……に跨ったタタラが先頭を征き、その後ろからは人面蝗ヘルローカストに跨った盗賊団がヒャッハーしながら付き従う。


 キュルルンお目々と裏腹に、紫の身体は筋肉質で額からは捻れた角が二本生えたベヒモス。


 不気味な女の顔と、鎧のような黄土色の外殻を備えた人面蝗に跨るならず者ども。

 

 それが砂煙と雄叫びを撒き散らしながら山を下ると、一目見ようと子ども達が家を飛び出し、慌てた様子で大人たちは子どもを家に引っ張り込んだ。

 

 

「いいか野郎ども!! 王都ニアレストは近隣諸国の中でも上物中の上物だ!! 王族を一人も逃がすな!!」

 

 ベヒモスの背中からタタラが叫ぶと地鳴りのような応答の声が響き渡る。

 

 遥か前方に見える王都を囲む城壁の中からは、あちらこちらで火の手が上がり、黒い煙を立ち上らせていた。

 

 

「クソ……!! このままじゃ出遅れる!! 先に行くぞ!! お前らは後から付いて来い!!」

 

 そう言ってタタラはベヒモスの横腹を撫でた。

 

 するとうっとりした表情を浮かべたベヒモスがバォオオオオオオオオオオ!! と嘶きサイのような蹄で地面を蹴る。

 

 ずどぉぉぉん……

 

 地響きと共にベヒモスに跨ったタタラは遥か前方に姿を消した。

 

 それを見届けるとまとめ役のサンボが指揮を取る。

 

「お頭に遅れるなぁああああ!! 全速前進!! 羽根を使え!!」


 ヒャッハー集団はその合図で人面蝗の手綱を打ち付ける。


 すると蝗は羽根を開いて木々の隙間を縫うように飛び出した。

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