お前とは番いになりたくないと言われたのに何故溺愛されているのでしょうか?

紅月

第1話

僕は今公爵家当主であり第一騎士団長であらせられるルイ・メイアン様の騎士団長室にて向かい合わせで座っている。


何でこんなことになってしまったのか…僕は契約書にサインをしたペンを持ったまま小さくため息をついたのだった…。



~遡ること2時間前~


いつもの様に上司達から押し付けられた仕事を処理していると第一騎士団の方が僕を訪ねてきた。


「あなたがガーベラさんで間違いありませんか?」


驚いて急いで振り返って見ると黒い制服に身を包んだ騎士団の方が僕の後ろに立って僕を見つめていた。


「は、はい!間違いありません。」


急いで立ち上がりながら返事をすると騎士団の人は続けて


「本日の14時にルイ・メイアン様の騎士団長室にお越し下さいとの事です。」


「…え?何故私が騎士団長室に?面識はございませんが…?」


たかが平民の自分が公爵家の方と面識があるわけ無い。


僕の頭の中は?で一杯だ。


ただでさえ仕事が立て込んでいて今週もまともに寝れていないのに…


…まさか予算が足りないと文句をつけられるのだろうか?


今まで第一騎士団から予算について文句を言われたことなんかなかったのに…最悪だ。


ただでさえひどい胃痛が増した気がする。


などと思っていると騎士団の方が


「それは私にもわかりません。ただそう伝えられただけですので…」


と困った顔で言ってきたのでこれ以上聞くのも可哀想になってきで「はい。畏まりました。」と返事をし騎士団の方は帰って行った。


そして今僕は上司に押し付けられた第三者騎士団に提出する書類を胸に抱えて第三騎士団室のドアの前に立っている。


胃がキリキリと痛む。しかし今この書類を渡さなければ14時の予定に間に合わなくなってしまう。


…よしっいくか。


コンコンッ「し、失礼します。」


そう言ってドアを開けると案の定全員不機嫌な顔をして僕の事を見ていた。


「あの、えっと今月の予算書と先月の決済書をお待ちしました。」


今更だが僕は文官の中でも経理部所属である。主な仕事は国王様から渡された予算で第一騎士団から第三騎士団そして位の低い文官達の部署の予算などを決めている。


…まあ、一言で言えば恨まれやすい。


予算で文句を言われるのもそうだが決算書を作成した際経費で落ちないものがあると報告すると怒り狂う人が多いのである。


…まさしく今のように。


ドカッ


「ウッ」


今僕は倉庫にて第三騎士団の方々から集団リンチにあっている…。


経理の人達は文句を言われるのを恐れて平民である僕にこう言った仕事を押し付けてくる。


経理と言っても僕が所属している経理部は位が一番低い部だ。


第一騎士団と第二騎士団の予算は基本は僕が所属している経理部で予算を立ててその他に予算が必要になった場合はもっと上の経理部の方々に要求が行く。


だからその二つの騎士団からはあまり文句を言われないのだが問題は第三騎士団である。

この騎士団は貴族といえど男爵や高くて子爵家の三男などが多く在籍しており平民もちょこちょこいる。

一言で言うならこの騎士団は治安が悪い。



この騎士団では主に、王都の治安維持と王都周辺のレベルの低い魔獣をたまに倒すお仕事をしている。

普通に働いていれば余裕で足りる予算を立てているのにも関わらずこの人達は飲みなどの無駄遣いが酷いのである。


月に1回、いや、二回までなら許せる。


なのに月に10回も飲み会をする必要があるのか?!

おまけにその10回を全て経費で落とそうとしてくる。

それを毎回2回までしか経理で落として貰えないことに毎月こうして腹を立てているのである。


そんな事を考えていると痛くて動けない僕の髪を引っ張ってなお文句を言ってくる。


「おい、お前平民の癖に俺たちに逆らうのか?!全部経費で落とせって言ってんだよ!!」


などと言ってオレの腹にパンチで入れてくる。


…吐きそうだ。

僕はただちゃんと仕事をしているだけなのに…泣きたい気分である。


しかし、誰かから助けて貰える筈もなくこの人たちの気が済むまで殴られ続けた。



「メガネ外しておいて正解だったな…」


痛む体を無視して上半身を起こす。


経理部の人達は文句を言われるのが怖くて僕に仕事を押し付けてくるが僕以外は貴族のご子息だったりするため殴られるなどの被害は無い。


なのでたかが平民の僕が押し付けられた仕事を嫌だと言って断ることなど出来ない。


そんな事を思いつつぼーっと座り込んでいると目から涙が出てきた。


こんなところで泣いている時間なんてない。処理しないといけない仕事はまだ沢山あるのだから。


流れてくる涙を乱暴に拭った僕は、左手の親指に嵌めているの指輪を外して「ヒール」と唱えた。


いつもの様に治しても痛み続ける心を無視していつもの様にピアスをつけてそしていつもの様に顔色が悪くクマが濃い顔をメガネと前髪でできる限り隠して倉庫を出ていく。


いつもこの瞬間僕はいつまでこんな事をしないといけないのだろうと考えてしまう。12歳の時に両親が事故で亡くなってしまってから僕は孤独にずっと頑張ってきた。少しでも亡くなってしまった親を安心させてあげたくて一生懸命頑張って平民で初の奨学生になり首席を独占し、そして初の平民から文官になった。


学院では平民で首席なのが気に食わない貴族から恨まれ虐められるのはしょっちゅうだったし両親が死んでしまった後に預けられた孤児院では虐められて友達を作るどころではなかった。


文官になってやっと解放されると思っていたのに結局こんなことになってしまって…僕は今まで何のために生きてきたのだろうかって…


僕は何故か人から嫌われる才能を持っているらしい…自分でも分かっている。

僕を愛してくれる人なんて居ないってことぐらい…


そう思いながら僕は来いと言われた第一騎士団長室に向かうのであった。

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