第14話 罰ゲームその⑥、その⑦ 後半

 一方、陽菜は罰ゲーム⑥の内容は決めたが、どこでそれを美咲にやらせるか、について決めかねていた。

「う~ん、千葉中央駅前と四街道駅前はもう使っちゃったし。JR千葉駅前に戻らせる? 人混みに紛れて、罰ゲームにならないんじゃないかな……。悠斗、何かいいアイデアない?」

 悠斗は、自分も完全に加害者側になるのかと思うと少しドキッとしたが、どSの陽菜にビビっていたので何か言わなくちゃと思い

「ハハハ、罰ゲームの中身を知らないと何とも言えないけど――そう言えば姉貴はインスタグラムのLIVE配信とかニコニコ生放送とか、たまにしているけど……」と、つい言ってしまった。

「それよ! それ、それ」と言いながら、陽菜はLINEのメッセージを打ち始めた。


 他方、JR四街道駅の北口の階段で陸が待っていると、普段着に着替えてきた美咲がコスチュームを入れた紙袋を片手に戻ってきた。

「待たせて、ごめん」

「いや、そんなに待っていないから大丈夫。ところで、どこでメシを食う? 俺はマックでもなか卯でも吉野家でも構わないのだが……」と陸が考えていると、LINEの通知音が鳴った。


「罰ゲーム⑥を実行するために、カラオケUTAYA四街道店に移動してね、陸お兄ちゃん♡」


 陽菜め、今度は何を企んでいるんだ? とは言え、今陽菜に逆らうわけにもいかないしな――仕方がない、美咲をカラオケ店に誘導するか。陸はため息をついたが、思い直して

「美咲、メシだけれども、ストレス発散も兼ねてカラオケに行って、ついでに食事を注文するというのはどうだ?」と提案した。

「いいわね、カラオケ。ストレス溜まっているから歌って発散するのもいいかもね――でも、まだ罰ゲーム⑥が残っているんでしょ。ちょっとまだ歌う気になれないかな……」

「まあまあ、そう言わずに。もしかしたら、罰ゲーム⑥をやるにしても、カラオケ店の個室って防音されているから、変なことを叫ばされても周りに聞こえないからダメージ少ないんじゃないかな?」と言いながら陸は思った。そうだよな、ダメージ少ないよな。罰ゲーム⑥は、変なことを叫ぶ系ではないのか?

「どうせ、罰ゲーム⑥をやる段になったら別の場所に移動させられるんでしょ……まあ、いいわ。メシを奢るのは罰ゲーム⑦のうちなんだから、陸に店も決めさせてあげる」

「そうか、だったら駅前に料金が安いカラオケ店があるんだ。そこに行こう」と言うと、陸は美咲と一緒にカラオケUTAYA四街道店に向かった。


「3時間パックですね。学生1名に大人1名ですね。機種はLIVE DAMにしますか、JOYSOUNDにしますか?」等々、受付の店員に一通りのことを聞かれたら、伝票を渡されて書いてある番号の部屋に入室した。

 すると美咲は自分のスマホの電源を入れると、急に文字を打ち込み始めた。

「一体何を打ち込んでいるんだ?」

「思いついたんだ、陸お……陸がやる罰ゲーム」

「で、一体何をさせる気なんだ?」

「私のパーカッション付きで、千葉中央駅前でラップをしてもらう」と言って、美咲はメモ帳に書いた歌詞を陸に見せた。

「ラップはともかく、そんな歌詞、嫌だよ」と陸が言うと、美咲は

「いーや、やってもらう!」と意固地になって言った。

 その時であった。また、LINEの着信音が鳴った。


「スマホでニコニコ生放送の準備をしてね、陸お兄ちゃん♡」


 そうか、そういうことか。陽菜は、人前では飽き足らず、ネット上で恥を晒せということか。これは下手をしたら、いや確実にデジタルタトゥーになるぞ。何とか陽菜を思いとどませなくては。

 そう陸が考えていると、またしてもLINEの着信音が鳴った。


「生放送中に以下の文章を美咲に朗読させてね、陸お兄ちゃん♡」


 それは美咲が陽菜や俺、左右加家などを巻き込んだトラブルの内容そのものであった。これはさすがに、首謀者が陽菜ってわからないか? と陸が思っていると、美咲が尋ねてきた。

「教授は、今度は何をしろって言ってきたの?」

「いや、これはちょっと何というか……」

「――いいから教えて。早く罰ゲーム⑥を終わらせて、すっきりしたいから」

「……わかった。これから美咲に送る文章をニコニコ生放送しながら、朗読しろってさ」

 陸はそう言うと、陽菜からLINEで来た文面をコピペして、美咲へ同じくLINEで文面を送った。

「何よ、これ」

 美咲はそう言うと文面を読み始めた。

「私め、加藤美咲31才は『本人に無断で、高校生男子Aの学校前で待ち伏せをしました』『その高校生Aのクラスメートを誘惑しました』『そして、その高校生Aの幼なじみの女の子を泣かしました』『男子高校生Aの高校の文化祭に中学校3年生だと偽って、文化祭に入り込みました』『男子高校生Aの妹の推しを侮辱しました』『男子高校生Aの家に上がり込んで、お兄ちゃんと男子高校生Aを呼ぶことによって、自分を隠し子と勘違いさせ、危うく男子高校生Aの親たちを離婚させるところでした』……どうして、見ず知らずの教授がこんなこと、知っているのよ?」

「ハハハ、それは、えっと、何て言うか……」

 さすがに陸も今回ばかりはうまい言い訳を思いつくことができなかった。すると、さすがに美咲も気がついたようで

「もしかして、この文面、陽菜が考えた? そうでしょう、陽菜でしょう――もしかして罰ゲームを考えているのも、全部陽菜?」と陸に聞いて来た。

「ハハハハ、何て言うか……すみませんでした!」と、もはや言い逃れができないと思った陸は土下座をした。

「許さん……許さんぞ、陽菜! もう罰ゲームなんかやるか! 陸も陸よ、どうして陽菜に加担したの!」

 陸は土下座をしながら、今までの事情を正直に話した……。


 すると美咲は

「だったら、そのお金は私が貸してあげるわ!」と男気をみせた。

「そうか、その手があったか!」陸もどうして今までそれに気付かなかったんだろうと言った具合に歓喜の声を上げた。


 一方、同じカラオケ店の別の部屋に陣取っていた陽菜は盗聴をしながら

「やばっ! 計画が頓挫とんざしそう。こうなったら最終決戦よ。私が直接会って、二人を別れさせる! 行くわよ、悠斗!」

「えっ、僕も?」

 陽菜は嫌がる悠斗の襟首えりくびをつかんで引きずりながら、個室の扉を開いて陸達の個室へと向かっていった!

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