第13話 罰ゲームその⑥、その⑦ 前半
落ちていく夕日を見ながら、陸はため息をついた……。しょうがない、罰ゲーム⑥をやるか……。陸が罰ゲーム⑥の紙片を開くとこう書いてあった。
「尿意を覚えてから、2時間我慢する」
「「……」」
一瞬、陸も美咲も黙りこくってしまった。――そして、美咲が叫ぶ!
「無理、無理! こんなことをしたら、私の社会的信用が壊滅する!! 絶対駄目!」
そうだよな。俺もお漏らしをした美咲のために、コンビニで女性用ショーツを買うのを想像したくない……。まあ、もしかしたら美咲の悪癖を直すのに一番効果的なのかもしれないが、生理的欲求を制限するのはやりすぎだ。陸はLINEで陽菜に「いくら何でもやり過ぎだ。他の罰ゲームに変更することを要求する」と打った。すると、すぐに陽菜からの返信が来た。
「ごめん、ネタでちょっと書いちゃいました~。変更するよ、罰ゲーム⑥は。代わりに罰ゲーム⑦を先にやってね♡ ごめんね、てへぺろっ♡」
だから、ハートをつけるな、ハートを! 一々腹立つな。でも、尿意我慢の罰ゲームをしないで済んで良かった……と陸が安心していると、美咲が背後に回って――陸のスマホをのぞき込んできた。
「私を放っておいて、一体さっきから何をしてるのよ? 」
陸は慌てて
「いや、これは、この罰ゲームを考えた教授と連絡を取っていて……。あ、そうそう、教授から罰ゲーム⑥は別のものに変更するって、連絡が来た。良かったなあ、美咲、ハハハハ……」とごまかしながら笑った。やばい、やばい。
「じゃあ、何でわざわざ罰ゲーム⑥の紙に『尿意を我慢しろ』なんか書いたわけ?」
「それはネタ……ではなく、そうだ、これは夏用の罰ゲームで、夏は今の季節と違って、汗をかくだろう? だから、お○っこを我慢することもできるけど、今の季節だとトイレも近くなるから、ちょっと厳しくなることを忘れていた――と連絡が来た……」
と言いながら、陸本人は冷や汗をかいていた。
「本当?」
美咲は疑いの目で陸を見てくる。
「俺が嘘を言っても、何のメリットもないだろう……」
と言いながら、陸は目を逸らした。
美咲は少し不満そうだったが
「……もういいわ。それで私はこれからどうすればいいの?」と聞いて来た。
陸は話題が変わったことに乗じて
「そう、そう。罰ゲーム⑥は別に考えるから、先に罰ゲーム⑦をしてくれって言ってきた」とすかさず答えた。
「――あと二つだしさ、もう少しだけ頑張ろうよ」
「本当に後二つで最後なんでしょうね。追加なんかあったら、許さないんだから!」
いやいや、そんなことになったら、さすがに俺も陽菜を止めますよ!
「と、とにかく罰ゲーム⑦を確認してみようよ」と言うと、陸は最後の紙片を開いた。
「陸が美咲に対して一つ命令する」
……やけに、罰ゲーム⑦は穏当な内容だな。ちょうどいいや、さっきの美咲が言ってきた俺の罰ゲームを――と思った瞬間、LINEの着信音が鳴る。
「ただし、陸の罰ゲームの取り消し以外でね♡」
と書いてあった。くそー、何から何までお見通しかよ! わかったよ、それ以外ならいいんでしょ、それ以外なら。
「美咲、罰ゲーム⑦は、俺が美咲に対して一つ命令をすればいいらしい」
「ふーん、やけに普通ね……」と美咲は言うと、ハッと気付いたことがあったらしく、
「も、もしかして、私の体を
陸はすかさず
「魔法少女姿の30過ぎを抱こうなんて思わねぇよ!」とツッコんだ。
美咲は
「ひ、ひどい。年齢のこと気にしているのに……。30過ぎなんて、彼氏の言う言葉じゃない!」とわざとらしく悲痛の声をあげた。
面倒くせえな! さっき自分の年齢を直立不動で叫んだばかりじゃないのかい! とツッコみたかったが、陸は心中に押しとどめた。そして
「……どこかでメシをおごってくれたらいい。とにかく衣装を着替えて来いよ」と言った。
美咲は今度は「ふーん」と言いながら、
「どうしたのかな~。最後の最後で尻込みしたのかな~」と陸の顔をのぞき込んできた。本当にうざい!
その時、陸のLINEの着信音が鳴った。また何か変更があるのかと、陸がスマホを確認すると
「せっかく命令ができるチャンスをあげたのに。メシおごれなんて、とんだヘタレね。見損なったわ、陸お兄ちゃん!」
黙れ、黙れ、黙れ! 一体何を期待して、罰ゲーム⑦を設定したんだよ! 動画で、俺と美咲がラブホにでもしけこむところでも撮りたかったのか? それこそ児童福祉法、青少年育成条例違反じゃねえかよ!
陸は憤慨したが、今の状況で陽菜に逆らえるわけがない。
我慢だ、我慢。あと2つなんだからと、深呼吸をしながら自分に言い聞かせた。そして、気を取り直すと
「いいから、着替えに北口の女子トイレまで行って来いよ」と言い、陸は美咲の背を押した。
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