第12話 罰ゲームその⑤ 後半
一方、陽菜たちは四街道駅構内にあるNewDays(コンビニ)の物陰に隠れながら、陸達の様子を伺っていた。
陽菜はウシシと笑うと
「普段やっているコスプレで恥をかくって……最高っ!」と嬉しそうに言った。
悠斗は
「陽菜が姉貴のコスプレ衣装を持ってこいって、こういうことだったのか……。姉貴、すまん!」と心の中で叫ぶと、その姉に対して手を合わせた。それにしても陽菜がこんなに『どS』だったとは! もし陽菜と別れ話になったら、僕はどういう目に遭うのだろう、と考えると悠斗は背筋に悪寒が走った。
陸はお気楽に
「どうせ、いつもしている格好だろう? さっさと駅構内の女子トイレで着替えてきてくれよ」と言うと、美咲は怒ったように
「会場以外でのコスプレ着用はルール違反なんだよ!」
と言うと、続けて
「もし捕まって駅事務室に連れて行かれたら、陸お兄……陸の襟首を捕まえてでも一緒に付いてきてもらうからね!」と厳しめに言った。
ピンコーン。またLINEの着信音が鳴った。ハイ、罰ゲーム⑥決定!……もういい加減、このパターンにも飽きてきた――というか学習しましょうね、美咲さん。
ともかく警察に引き渡されたりしたら、問題だもんな……。
「わかった。それじゃあ……」
すると、美咲は間髪を入れずに
「北口は交番があるから無理!」と自ら言い出した。
「じゃあ南口でやるか」
美咲はしまったという顔をして
「……逃げ道を自ら塞いだ気がする」
と少し落ち込んでいるようだった。
陸はスマホを取り出し、陽菜にLINEで
「駅構内は警察に捕まる可能性があるから、南口を出たところでパフォーマンスはする」と打ち込んで送信すると
「OK! でもこれ以上の譲歩はしないからね、陸お兄ちゃん♡」とすかさず返信が来た。いちいち♡マークを付けてくるな! 腹立たしい!
「本当にここでするの、陸?」
確かに南口は、北口ほどではないがバスや「餃子の王将」のテイクアウトの品を待っている人達がいて、駅への送迎の車もそれなりの頻度で来る。美咲が言ったほど閑散とはしていない。
「でも千葉中央駅やJR千葉駅付近でやるより幾分かマシだろう?」
「……わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば。後で陸にも罰ゲームやってもらうんだからね!」そう言いながら、美咲はステッキを伸ばしてかざした。そして一度、深呼吸をすると――魔法少女姿の彼女はポーズを決めて叫んだ!
「私の魔法で全ての悪を浄化する! 皆のアイドル、マジカルアイドル・アイ! この駅の平和は、私が守る!」
……が、バスを待つ人達や送迎の車から降りてきた人が、ちらっとこちらを振り返るが、何もなかったようにバス停で立っていたり、駅へと歩いていったりしている。……誰も突っ込まない。ひたすら静寂。店員の「焼き餃子二人前、お待ち!」の掛け声が虚しい……。四街道市民は少ないようだ……ノリも、リアクションも、交通量も――四街道、恐るべし……。
突然吹いてきた北風が、ピューと美咲の魔法少女コスチュームのスカートを揺らす。決めポーズをしている美咲の顔にどこからか飛んできたビラが貼り付く。半袖のコスチュームのせいで美咲の体は震える……寒い。身も心も寒い。これはこれで心理的拷問だ……。
一方、陽菜はスマホを構えながら「ヒィッ…最高……。この瞬間のためにこれまで生きてきた気がする!」と
「マジでこの人と付きあっていて、いいのだろうか?」
悠斗は真剣に悩み始めた――でも、破局したとき、この人は僕の卒業アルバムをネタにしてYouTube企画とかやりそうだ……。付きあうのも地獄、別れるのも地獄。果たして僕には地獄しか待っていないんだろうか?
他方、乾いた北風が陸の前髪を少し揺らすと、陸は目を細めて落ちていく夕日を見つめながら思った……。
「あと二つ……あと二つで終わる……はずだ! っていうか終わらして下さい、陽菜様!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます