第11話 罰ゲームその⑤ 前半

「お、俺が罰ゲーム!?」

 陸は少し動揺したが

「俺が罰ゲームをやって誰が得をするんだよ!」とすぐに切り返した。

 美咲は

「私の心が晴れる!」と即答した。

「いや、俺だって好きでこんなことやらせている訳じゃないんだよ――って言うか、巻き添えになっている俺の方が精神的ダメージが大きいような気がする……」

「私ばっかりずるいよ、陸お兄……いや陸。バランスを取って、陸お兄ちゃんもするの!」

 陸のLINEの着信音が二回鳴った。美咲さん、最後は開き直って『陸お兄ちゃん』とはっきりと言い切りましたね。あなた、どれだけストロングハートなんですか? ――全く学習していないけど。

「いや、バランスって……。これは美咲の悪癖を直すための罰ゲームだろう?」

 開き直った美咲は

「とにかく、美咲の言うことを一つ聞く、って約束守ってもらうからね!」と全く譲る気はない。

「……わかったよ。罰ゲームをすればいいんだろう? それで何をするんだ?」

「そうだね……、それじゃあ次の罰ゲームまでに考えておく」

 その時、また陸のLINEの着信音が鳴った。LINEの文面にはこう書いてあった。


「罰ゲーム⑤の紙片を開く前に、速やかにJR四街道駅に戻るように」


 何だよ、今度は場所まで指定かよ。

 さて、美咲には何と言って誘導しよう?

「美咲さ、今度の罰ゲームは四街道限定の罰ゲームらしいのだよ……」

 美咲は「はあ~」といった表情を見せ

「何それ?」と反発してきた。そうだよな、今までの罰ゲームを考えたら、今度は四街道くんだりまで行って何やらせられるのか、反抗したくなるわな。

「いや、今度の罰ゲームは人通りの多いところでは、ちょっと……と言った感じの罰ゲームでな。四街道の方が多少は閑散としているだろう?」

「多少どころか、かなり閑散としているよ、四街道は!」

 うっ、かなり辛辣だ……。しかし千葉市民から言われると何も言い返せない――悲しいぃぃぃ。

「だから、閑散としている四街道の方が都合がいい罰ゲームなんでさ、悪いけど四街道駅まで移動してよ。どうせ、あなただって稲毛区の長沼町でしょ?  バス使えば帰れるでしょう?」

「どうせ、とは何だ、どうせとは。四街道と一緒にするなよ!」

 美咲は本気で怒っている。千葉市民のプライドってやつか? まあいいや、とりあえず四街道まで移動させようと、陸は渋る美咲の背を押しながらJR千葉駅まで誘導すると、総武本線に乗って四街道駅まで連れてきた。

 そして、改札口を出るや否や、またしてもLINEの着信音が鳴った。


「陸のリュックサックに入っているキーを四街道駅のロッカーに差し込んで、ブツを受け取れ」


 何だよ、ブツって。っていうか、いつの間に俺のリュックにキーを紛れ込ませていたんだ? どれだけ仕込んでいるんだよ、この罰ゲームは! 

 そして陸がリュックサックに手を突っ込んでキーを探し始めると、記憶にない形状のモノが手に触れた。陸が取り出してみると、何かの機械らしい。見た目はマイクのような――そうだアマ○ンで見たことがある! 集音マイクだ! さっきから、やたらとこちらの会話に反応してくると思ったら、こんなものを仕込んでいたのか! おのれ、陽菜っ! と思ったが、過去の陽菜の脅しが脳内でこだまする……。


「言っとくけど、私の言うことは絶対だから。裏切ったらわかっているでしょうね?」

「いいわよね。 まさか、この状況で私に逆らえると思っていないでしょうね?」


 「金利」「秘密の暴露」「オンラインゲームのアカウント凍結」など、考えたくもない単語が脳内を走る――陸は黙って集音マイクをリュックにしまった……。

 そして、改めてロッカーキーを探すと、キーに付いているタグの番号と同じロッカーの鍵穴に差し込んで回した。中には魔法少女っぽいピンクの衣装と伸縮自在のステッキが置いてあった。

「何だ、こりゃ?」

 すると、隣にいた美咲が叫んだ!

「あっ! どうして私のコスプレ衣装とアイテムがこんなところに!?」

 陸は眉をひそめながら、罰ゲーム⑤の紙片を開くと


「衣装に着替えたら、四街道駅の0番線ホームで魔法少女、マジカルアイドル・アイの決めゼリフを叫べ」


と書いてあった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る