第4話 仕組まれた週末
「フフフ、兄貴は私の言うことを聞いていりゃあいいのよ」
陽菜の不敵な笑いが陸を不安にさせる。大概のことにしておいて下さいね、神様、仏様、陽菜様。
「そ、それで私めは一体を何をすればいいのでしょう?」
陸はおそるおそる聞いた。
「兄貴、今度美咲とはいつデートに行くのよ?」
「来週末は(美咲の)コスプレのイベントが入るから、二週間後の日曜日だけど……」
「そう、わかったわ。それまでに私が罰ゲームを考えておいてあげる。美咲が兄貴のことを『お兄ちゃん』と呼びそうになったら、美咲に罰ゲームをさせるの。『これからも俺と付きあいたければ、お兄ちゃんと呼ぶな。呼ぶなら罰ゲームをしろ!』てな感じでね。いい? いいわよね。 まさか、この状況で私に逆らえると思っていないでしょうね?」
「はい、わかりました。――それでどんな罰ゲームをさせろと?」
陽菜の強圧的な態度に陸は押されっぱなしだった。お願いしますから、美咲も、その隣にいる俺もトラウマにならない程度の罰ゲームでお願いしますね。
「それはこれから私が考えるわ。それとね、あらかじめ兄貴に教えているとためらう可能性があるから、封をした紙に罰ゲームの内容を書いておいてあげる。美咲が『お兄ちゃん』と呼んだら、表記してある番号順に罰ゲームの紙を広げて、そこに書いてある罰ゲームをさせるように。わかった?」
陸は「お前は趙雲に知恵を授ける諸葛亮孔明か!」とツッコみたかったが、お金を借りる以上陽菜に従うしかなかった。
「わかりました――仰せのままに……」
くぅー屈辱的だ。春休みにバイトをして、お金を返すまでの我慢だ。我慢だ、我慢しろ、左右加陸! と陸は自分に言い聞かせるしかなかった。
*
一方、美咲のいる加藤家。
「お母さん、ご馳走様~」と、美咲は自分の使った食器を台所の流しにニコニコしながら持って行った。そして、鼻歌を口ずさみながらダイニングキッチンを出ていく。
「ずいぶんご機嫌ね、最近の美咲は」
美咲や悠斗の母である加藤恵子は少し嬉しそうに、テーブルを囲んでいる夫の浩二や悠斗に向かって言った。
ここ半年ぐらいの美咲は、やれ彼氏に振られたわ、やれ変な写真をネットに上げられたわ、弟を寝取られたわ(これは悠斗が激しく否定)と愚痴しか言わなかったのだが、ここ2、3日の美咲はやたらと機嫌がいい。どうせ同じ食卓で顔を合わせるのであれば機嫌がいい方が家族間の雰囲気も明るくなると、恵子は思っている。
「何か、いいことでもあったのかしら? 悠斗、何か知っている?」と恵子は尋ねた。
浩二は顔を隠すように新聞を読んでいる。
悠斗は冷や汗を流しながら「ハハハ、何かいいことでもあったのかな?」と目を泳がせながら言った。
恵子は少し眉をひそめながら、「嘘おっしゃい。あなたがこちらに目を合わせないときは大抵嘘をついているか、何かごまかそうとしているときよ。怒らないから本当のことをおっしゃい!」と言った。
「ハハハ、でも姉貴にもプライバシーってものがあるわけだしさ……」
「ということは、やはり知っているのね?」
「やばっ……。まあ僕からは何とも言いにくいから、姉貴の口から直接聞いて欲しいな……」
恵子はますます眉をひそめながら、
「そんなにお母さんに言いにくいことなの?」と少し心配するように言った。
「言いにくい!」
悠斗は即答した。
浩二は顔を隠すように新聞を読んでいる。
恵子は「そんな人に言うのが
悠斗は
「僕にそんなこと言われたって――だから、姉貴に聞いてくれよ、まさか30過ぎの姉貴が未成年と付きあっているなんて、僕の口から言えるわけないじゃないか」と半ばつぶやくように言った。
「あっ!」
自分が言ったことに気がついた悠斗は思わず声をあげた。
「美咲は、未成年の男の人と付きあっているって本当なの? 一体何歳ぐらいの方なの? まさか中学生以下ということはないのでしょうね? どんな方なの? 向こうの親御さんはそのことを知っているの?」
悠斗は
「いや、そんなにマシンガンのように、いろいろ聞かれても――わかった、僕の知っていることは全て話すよ。でも姉貴には僕から喋ったこと、一応黙っておいてくれよ……」と完全に自白モードに入った。
「っていうことは、以前付きまとった高校生の男の子と付きあっているってことなの? しかも、美咲が原因で向こう様の親御さんが離婚しそうになったって……。ちょっとお父さん、少しは心配しないんですか? あなたの娘のことですよ!」
やっぱり浩二は顔を隠すように新聞を読んでいる。そして、ぼそっと
「お前が美咲のこと、子供の頃から少し甘やかしすぎたからじゃないのか?」と言った。
「何ですって!」
恵子は浩二の方をキッと
浩二はもはや新聞を読んでいるのか怪しいが、とりあえず新聞で顔を隠しながら、
「いえ……何でもありません……。忘れて下さい……」とぼそっと言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます