第5話 青少年育成条例違反?

「それにしても、いくら相手が高校生だっと言っても、未成年なのよね……。法律的に問題が――ないわけがないわよね?」

 恵子が心配そうに、浩二にむかって言う。

「……」

 浩二は先程怒鳴られた経緯もあって、読むふりをして黙ったまま新聞で顔を隠している。

「お父さん、いい加減にして下さい! このまま放っておいていいんですか!」と恵子は、浩二が立てて読んでいた新聞紙を無理矢理下ろすと、浩二の眼を見て言った。

 浩二はコホンと咳払いをすると

「……恐らく、青少年育成条例や児童福祉法とかに引っかかるケースもあるんじゃないのか?」

とうろ覚えの法律の名前を挙げた。

「具体的には、どんな場合に引っかかるんでしょう?」

「……わかった、パソコンで調べてみよう」


 浩二はノートパソコンを食卓に置いて開くと、検索エンジンで「児童福祉法」「未成年」「交際」をキーワードにググってみた。恵子は浩二の後ろでパソコン画面を覗いている。

「えーと、どれどれ。とりあえず一番上にある法律事務所のHPを開いてみるか……」

 浩二がA法律事務所の「児童福祉法違反について」をクリックして、内容を見てみると、


『児童福祉法 第34条1項6号 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

6 児童に淫行させる行為』

『同法第60条1項 第34条第1項第6号の規定に違反した者は、10年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。』(出典:弁護士法人デイライト法律事務所HP)


との記載があった。

 二人にしばし沈黙があった後、浩二は振り返って恵子を見ると

「まあ、美咲に限ってそういうことはしないよな? ハハハ」と冷や汗を吹きながら尋ねた。

「ホホホ、そうですよね、美咲に限って。それに児童って小学生のことでしょう? 普通高校生は『生徒』って呼びますしね」

 浩二は確かにと思って

「一応、それも検索してみるか……」

と言うとググってみた。


『第四条 この法律で、児童とは、満十八歳に満たない者をいい、……』(出典:弁護士法人デイライト法律事務所HP)


「母さん、民法の未成年と同じで、児童には高校生も含まれるぞ!」

「まあ、そうなんですね。――美咲は変なこと、考えていないですよね……」

「そ、そうだな。うちの美咲に限って、そんなことはなかろう……」

 浩二はついでに「青少年育成条例」「千葉県」「未成年」「交際」でも検索してみた。


『だれでも、ソープランド、ファッションヘルス等で青少年に「みだらな性行為」教えるなどの行為をしてはいけません。(違反すると、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)』(出典:千葉県HP)


「ハハハ、これもないな、うちの美咲に限って……」

 浩二の笑いはだんだん引きつり始めた。

「そ、そうですよね。美咲に限って……」

と、恵子もから笑いをしながら答えた。恵子の愛想笑いもだんだんそらぞらしく聞こえてくるように感じるのは気のせいだろうか?


『保護者は、特別の事情がなければ、深夜(午後11時から翌日の午前4時まで)青少年を外出させないよう努めなければなりません。

だれでも、威迫し、若しくは欺く等不当な手段により、又は保護者の委託若しくは承認その他正当な理由がなく、深夜に、青少年を連れ出し、同伴してはいかいし、又はとどめてはいけません。(違反すると、20万円以下の罰金又は科料)』(出典:千葉県HP)


「母さん、本当に大丈夫か! うちの美咲は!」

 つい、浩二は大きな声を出してしまった。

「そんなこと、私に聞かれても――でも、これぐらいなら、あるかもしれませんね、美咲でも……」

「むこうの親は知っているのか? 美咲と交際していることを!」

「私だって知りませんよ! 今すぐ美咲に聞きましょう、大事に至る前に!」


 浩二と恵子は美咲の部屋のドアをノックすると、いきなり美咲の部屋に入った。

「どうしたの?」

 美咲は床に寝転びながら、肘をついてマンガを読んでいた。口にせんべいを咥え、足をバタバタしている様子には緊張感のかけらもない。

「美咲、これから聞くことは大事なことだから、ちゃんと答えてちょうだい!」

「何よ、二人とも血相を変えて。私、何かした?」

「あなた、高校生と交際しているって、本当なの?」

「うん、まあ最近だけどね……。どうせ悠斗あたりから聞いたんでしょ! アイツ本当に口が軽いんだから!」

 浩二は咳払いをすると

「それで、その高校生とはどんな付き合い方をしているんだ?」と緊張しながら聞いた。

「どんな付き合いって、普通にデートしたり、オンラインゲームしたり、コスプレを手伝ってもらったりしているけど……」

 浩二はデートやゲームはともかく、最後のは……撮影係か? まさか着替え補助?高校生に何をやらせているのやら、全く――いや、今はそれどころではない。

「じゃあ、それ以上のことはしていないんだな?」

 美咲は

「何よ、怖い顔して……。ひょっとしてセッ○スとか、心配してるの? ないない、さすがに私でもしないって。相手は高校生だよ」と笑いながら答えた。

「本当に、その、男女の仲にはなっていないんだな?」

「しつこいわね、してないわよ。私だって、未成年に手を出したら警察に捕まるってことぐらい知っているから、大丈夫よ」

 いや、お前○ックスはしていないかもしれないが、未成年に手は出しているから、と浩二は心の中でツッコんだが、まずは淫行していなかったことが判明して、恵子と共にとりあえずほっと肩の荷が下りた気がした。

「それで、向こうの高校生の親御さんは、あなたと付きあっていることを知っているの?」

「うーん、多分知っているんじゃない。陸お兄ちゃんが言っていると思うよ、多分」

「多分って――」

 真剣な顔をしている浩二と恵子をよそに、美咲はせんべいを口でパリッと割った。


 

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