ガーナのエリックのこと
30年くらい前ある雑誌に国際郵便による文通を求める欄に投稿して掲載された。
昔のことだから個人情報が雑誌に載って公開される時代だったが、別に不利益は何もなかった。
この雑誌に個人情報が載って2ヶ月以上経ったある日、船便で一通の手紙が来た。
場所は西アフリカのガーナからで差出人の名はエリック。
来てすぐに察した。まだ貧しい頃のガーナだ、エアメイルの料金は高額だったの゙だろう。船便ではアフリカからは2ヶ月かかることも知っていた。
手紙を読むと差出人の彼はまだ10代の少年だった。
しかし、その若さからすると手紙に書かれている内容は礼儀正しく、文章も成熟して感じた。
まあ、当時の俺の英語能力を考えるとそんなには理解しなかったかも知れないが(今でも大したことはない)
彼との文通はしばらく続くが、彼は自分の家族の写真や彼の周辺諸国の紙幣も送ってくれた。
俺は彼がエアメイルを使えるように国際返信切手券を毎回送ったし、違法だが米ドル紙幣を手紙に忍ばせて送ったこともある。
彼はある時何でも良いから送ってくれだとか言うが、当時の俺は貧しく手元に他の国の人が必要とされると思しき物の持ち合わせもなかった。
それでもある物いくつか送ったが、どうも彼の使う物はなかったらしい。
そこで俺は必要とする物をはっきり書いてくれと書き送ったところ、関数電卓が必要だと言った。
これはあった。俺が10代の学生時代に学校の授業で使うために当時購入したものだ。
少々古くもう何年も使っていないが、十分使えるので中のリチウム電池の代えも買って来て送った。
手紙によると彼も学校の授業で使う関数電卓が必要だったが、自分で買わなければならず、その資金に困っていたのだ。
こうして俺によって必要を満たした彼だが、これが彼の生活に他人からの妬みを及ぼすようになる。
その電卓どうしたとか、最近ちょっと羽振りが良いなと。
そしてしばらく後彼と似た字の手紙がガーナから届いた。彼とは別の人だが、一通目から関数電卓の要求が書かれていたので、俺は困惑しエリックにこの件について聞いた。
するとその手紙の主は彼のクラスメートで彼の手元から俺からの手紙を盗んで
俺はもう手元に関数電卓がないためと、盗んでどうこうする彼について手紙の返事は書かなかったが、ガーナの教育制度の高さに関心するとともに、ガーナやアフリカ諸国でもどんどん先進国に追いついていっているんだなと実感した。
今考えると、そこまでして教育を受けたいのだから日本でクラウドファウンディングでもして関数電卓を送ると言う慈善事業でもしてやればと思うが、当時そこまで知識はなかった。
それに無理をしてすでに電卓を持っている人の負担を考えると揉めるかも知れない。
それからしばらくして彼はとの文通はなくなったが、彼は今は壮年の頃である。
どうしているだろうか。
この件についてネット内のある書き込みで述べると「どうせそれを売って食品に代えただろう」とか言う人がいた。
ここまで知識のない人が今でもいるのは驚きだが、日本が先進国だと思っていい気になる時代もそろそろ終わりに近付いているだろう。
気が付いた時途上国だと思った国々の人からも日本人が見放される立場にならないように願うが、どうなるだろう。
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