胆振線

 昔北海道の伊達市にある伊達紋別駅の0番ホームから乗る路線の胆振線と言う名のものがあった。

 この胆振線に伊達紋別駅から乗ること二駅で壮瞥駅で、ここで降りると洞爺湖が近くにあり、そのまま乗ると長流川の渓流の流れを見ながら旅路を進む。途中蟠渓ばんけいや北湯沢など温泉地のある駅は旅情を感じさせるが、かつて大滝村だった頃の伊達市大滝区は三階滝などのスポットもある渓流釣りの出来るところだ。

 ここから進むとこの長流川水系と日本海に注ぐ尻別川水系の分水嶺となる山に入る。このあたりから主要道路から線路は離れ、山から川の始まる地点を数眺めることが出来る。このあたりでは国道276号線は尻別川の本流沿いに、胆振線の鉄道は尻別川支流のオロウェンシリベツ川沿いに進んで行く。


 私が胆振線を利用していた頃から自動車による移動や運送が主体になっていたので当然国道276号線側の方が栄えて民家が多くドライブインなどの商用施設があったが、線路側は農家の民家がまばらな地域になっていた。

 そんな中に胆振線の御園駅と言う少々特徴のある駅があった。この駅は無人駅だが近くの誰かが管理していたらしくオロウェンシリベツ川の支流の小さな流れを引き込んで池を作りそこでイトウを飼育していた。この駅の停車時間がある時はこの池のイトウを乗客に見せることをしていた記憶がある。


 このあたりから汽車の車窓から大きな山が見えてくる。その山は羊蹄山ではなく尻別岳と言う山だ。古くはこの山を雄岳と呼び、後方にひかえる羊蹄山を雌岳と呼んでいたそうだ。

 大体御園駅から喜茂別町鈴川地区にある北鈴川駅までのあいだこの両山が並んで見え、喜茂別町中心に向かって尻別岳が大きく迫り左側へと移る。まだ少し遠い羊蹄山は初夏では尻別岳とは色が違う。尻別岳が全体に濃い緑色をしているのに対し羊蹄山は全体的に緑色が薄く山に縦に走る谷には雪が残っていて白い筋が何本か見える。


 こんなコントラストをこのあたりで見られるが、さらに胆振線を進むと京極町あたりでは尻別岳は小さく見え存在感は無くなる。と言うか羊蹄山の圧倒的な大きさか真近に迫りすぎるゆえそんな印象を受ける。尻別岳が1107.5mで羊蹄山が1898.0mの標高での高さなのだが山の大きさは数倍も違う。


 胆振線は喜茂別町の北側から終点の倶知安駅までのあいだは羊蹄山の東から北にかけて麓を通るかたちになる。



 胆振線は1986年昭和61年に廃線になり両山の並ぶコントラストはあまり見えなくなった。国道276号線では鈴川地区にある丘陵が遮るのであまり良く見えないし、鉄道のあった近くを走る道道695号線でもやはり丘陵などではっきり見えないかも知れない。車を降りて鈴川地区あたりの尻別川沿いの土手の上ならそんな風景がまだ見えるかも知れないが。




 車を持つようになるとニセコアンヌプリの山々を抜ける道を走って羊蹄山を望めるがそんな展望スポットはそんなになかった気がする。

 


 昭和の時代寂れた鉄道を使って見て来た風景が今や世界的に知られるようになったらしい。ニセコにいくつかあるスキー場は海外の人が定住する程だと言う。このスキー場を楽しむためと働くためにと世界の富裕層が住むようになり、羊蹄山を望むマンションに10億円の値のものが作られたと言う。


 貧乏人の若者だった私が僅かなお金で乗った胆振線の風景がこんなにも大きくなるとは……

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