魔界転生について思う事

 ここで、このワードを目にしない事はほぼないだろう。

 昭和男である生きた化石の我々にとっては魔界とは何だったろうか。


 子供の頃はネットは実はあった。しかし一般市民向けと言うのが皆無だった。

 いつからかは年月まで言えないが(調べるとすぐわかるだろう)デジタルと言うのも子供の頃からあった。これも一般市民には馴染みのないものだった。


 我々の子供の時代でもそんなネットワークがあったのは行政機関間で行われる通信網と大企業が導入していた範囲に限られていた。


 だから情報はテレビとラジオと新聞と雑誌等一方的なものによるしかなかった。

 中央にコネのある人ならば人の知らないような情報を電話や手紙で得ることも可能だが、そんな範囲内のものなら新聞や雑誌に取り上げられる。


 この辺テレビの中の世界がある意味異世界だった。

 子供向け番組ではウルトラマンや仮面ライダー等の特撮物やアニメが多く制作されてこの世界に浸った。


 近所の幼児か小学生なら低学年までが、仮面ライダー変身トウ〜!だとか飛び跳ねたポーズをしていた。

 そんな幻想も一桁代の幼い中で終わる。


 それから子供たちは外へ出て現実の世界で生きる事を選ぶようになる。

 憧れで終わる恋愛話も多かったし、学校ではかけっこの速さを競い合い、課外での趣味なども独自に行う年代だった。


 もうそこでは仮面ライダーにもウルトラマンにもなりたいだとか思わなかったし、そんな事を言うクラスメートもいなかった。


 テレビの世界は東京での一角での話が殆どだった時代、その映る中の世界にしても俺達にとっては異世界だったが、こんなものには憧れなかった。

 クラスの可愛い女の子と仲良く出来た方が良いと思う時代だ。ただし、こんな事をあからさまに行うと冷やかされいじめの原因になるが。


 タイトルが魔界転生と言うからには魔界とは何かと考えなければならないと思うが、ラノベの世界で読んだところ異世界と大きく違うようには思わなかった。


 かつては子供にとって異世界とは大人にしか行けない場所、あるいは大人同伴でしか行けない場所になっていた。

 これがやがて自分でも行けるようになると、また別の異世界を求めてさ迷って行くかと言えば人によって分かれる。


 読書の世界に疎い人までもが異世界転生と言う内容の物語が流行っていることが知られるようになった昨今のこと、何故これほどまでに受けるかも考えよう。


 ネットが繋がって大金をはたいてでしか行けない遠くの外国でも写真や動画で簡単に見られるようになった。(昔は兼高かおる世界の旅と言う番組があった、1ドル360円の時代)そこへも積極的に行きたいような雰囲気はあまりない。


 異世界ファンは戦乱の世を求めているのだろうか

異世界へ行って魔術を使える兵士になって成果を上げて位の高い若い美しい女性と恋愛や微妙な関係になると言う、ずいぶん現実離れした想像力の方へ行ってしまう。


 昭和ならショッカーが攻めて来るので仮面ライダーに変身してやっつけたらカッコ良い程度。


 それより上の世代なら宇宙戦艦に乗ってワープを繰り返して遠くの天体にいる女帝から地球回復の機器を貰いに行き、その中で美しい女性乗組員とどうのこうのと…


 この世界に埋没していたのはどちらかとアニメの設定や迫力のある映像を愉しむ面が多かった気がするが、生身の人間が光の速度を超えて平気でいられる設定が非現実的だ。


 ショッカーが来てもわざわざ仮面と着ぐるみとか暑そうで変装したくない。


 どちらも共通しているのは「あるわけがない」「非現実的」と言う想像でするしかない物語にのめり込むことだ。


 地球に何万光年先の天体へ行って1年後に戻って来た人はいないし、変身トウ〜で人の何倍もの体力になるわけが無い。


 ところに現実の世界で生活を可能にする歯止めにしているかも知れない。


 そんな現実には無理な設定もされていて本気では信じると言うところまで行かないところに、幼児でも娯楽の範囲にとどめているのだろう。


 この子供でもわかるバカ馬鹿しさがフィクションと現実の世界を隔てる大きな淵になっている。

 この淵が破綻するところに精神の崩壊を起こしかねない状況が存在する。

 現実世界が厳し過ぎるがゆえに現実世界に戻って来る事を拒むと言うことが起きてしまうのだ。


 宇宙戦艦に乗るのに何らかの公務員になって現実的に働くことを考える人はいない。

 しかし、これが UFO となって未知の天体からのはるかに科学が進んだ宇宙人のものだとすると本気になる人が出てくる。


 非現実を叶える未知の何者かが存在すると考える人は実は少なく無いのだ。

 この辺が非現実と現実の接点だが、これを実証した人も聞いたことがない。


 未来人が来ただとかの話はあるが、証拠としての実証がある存在はない。

 要するにありそうで、あるかも知れないことも実証となると無いのだ。


 こう言う空想的夢想を追い求め過ぎると、得体の知れない政治形態であったり、怪しい宗教団体であったりして、行き過ぎると死人が出る。


 この非現実を空想させるだけの現実から逃れたい社会や家庭から若者を救ってやらねばならない。

 行き過ぎた野望は平和を乱す。彼らは一旗上げるのに戦いたいのだ。

 戦いと言うと未だに戦乱の世界の昨今でも自衛隊解体を目指す政治思想家の闊歩する日本だ、これも彼らを空想の世界へと追い込む。


 言い換えれば、一旗上げなければ褒賞とともに男としての価値を認められないと信じてしまっている。


 現実社会で自己承認を自ら得ていくのには、そこで幸福になるしか無い。

 男は一旗上げて頂点を目指すばかりが人生ではない。そんなことを思っているから行き場を失いがちになる。

 誰でも目に見える現実で生きて行くしかないのである。


 異世界転生などは何も最近に始まったジャンルではない。昔からあったのだ。

 これが書く方も読む方も増え過ぎたが故に危機感を感じてしまう病人老人であった。


 1960年代サイケデリックが流行っていた頃洋楽ミュージシャンの中でLSD等の幻覚を強く促す薬を試した者がいた。

 この幻覚の世界が彼らにとって本当の世界になり、現実の世界に戻って来なかった人が何人かいる。

 中には若くして亡くなった人もいるし、長生きはしたが自主的な意思を持たず生き続けた人もいる。


 ラノベ小説の世界は娯楽には良いが生活の中でも現実の世界へと戻って生きて行ってほしいと思ったりする。そんな死にかけた者の妄想もこんな風である。

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