第2話

 彼女は他の人と違うところが多かった。否、こんな言い方では伝わらない。

 彼女は彼女だけだった。

 同じ人間はこの世に一人もいないと放ったあの人でさえ彼女を見れば、自分の言葉に嘘はなかったと思えるだろう。

 彼女の涙には1粒1粒感情があったんだ。辛い、苦しい、しんどい

 そして嬉しい、幸せ、愛しい。

 どれだけ小さな涙の粒でも、それがいないときはなかった。

 出会ったばかりの頃、まだ彼女のことを知りきれていなかったし、理解しきれていなかったあの頃

 彼女が涙をみせたときがあった。流れていくその水滴に目を疑った。

「なぜ涙に感情があるの」

 不躾な質問だと今なら思えるが、そのときは分かり得なかった。

「涙も生きているもの。生きているものに感情があるなんて、パンにバターを塗るくらいの事なんだよ」

 また彼女の応えも分かり得なかった。ジャムを塗る人だっているだろうと思ったが、彼女はパンにバターを塗るのだ。それならばそれが正解なんだ。

 湿っていくちり紙を見ているだけで何もできなかった。

 それでも彼女は否定することも、泣き止むこともなく、鼻水の混じった声でただ

「明日はパンが食べたい」

 とだけ言った。

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