全て決まっていた

@yuragu_yurari

第1話

 音楽界に多大なる影響を与えたマイケルジャクソンが亡くなったことさえ、

『世界が彼に追いついていなかった。』

『彼の奇麗すぎる心はこの世界では生きることが困難だ』

 と言われている。

 そんな世界はマイケルが亡くなった後今も尚続いているのが皮肉と言えるだろう。

 きっとあの子もそんなマイケルと同じだったのでは無いだろうか。

 彼女が生きるにはこの世界はあまりにも単純で奇麗すぎた。

 彼女が眺めていた窓の外では一体何が起こっていたのだろう。

 子供のはしゃぎ声、泣き声。うたた寝をしているぶち模様の猫。そんなものに目もやらない彼女がみていたものはきっと、その景色をくり抜いた先のものだったのではないか。

 他の人にはきっと見えない、見ることが叶わないものを彼女目は捉えていた。


 夜明けの話をしよう。夜が明ける時、その陽が昇る瞬間は一番世界が冷え込むとき。

 そんな夜明けを、彼女はいつも待ち望んでいた。

「朝を待つのが好きなんだ。暗くて少し肌寒い夜を越えて、明るくて眩しい朝。

 きっとそれら地位や人種によらず誰にも平等に訪れるものだし、すべてが決まっていることだから。」

 そう言って彼女はいつも目を閉じなかった。いつまでも窓の外をみて、望んだ景色を見ていた。

 もちろんいつかは彼女の感じているものを感じたいと願っていたし、彼女が見ているものを見たかった。

 朝が平等に来るように、それも平等に感じてみることができると信じて疑わなかった。

 彼女との付き合いは短くはなかったが長いと言えるほどでもない。

 けれど、笑った顔、泣いた顔、納得のいかない顔、辛気臭い顔、この世に存在するであろう表情というものを網羅できるくらいには彼女の隣で時間を過ごした。

「才能で片付けられる天才をあなたはどう思う?」

 彼女の質問はいつも急で、突拍子もなくて、人生で考えたことなど一度もないようなそんなものばかりだった。

 だから、当たり前に自分で満足のいく回答をできることなどなかったし、答えを出せないことのほうが多かった。

 それで良かったんだ。もし6割しか導き出せていない答えを出せば、あとの4割は彼女が持っていてくれて、パズルのように埋めてくれた。彼女は一度も答えを否定することをしなかった。

 二人で1つの答えを出していた。

 そうすることで繋がれていると思っていたんだ。きっと彼女も。

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