中
「どうしてその顔を見せてくれぬのだ?」
みちのくの
「わたくしには、もう、
その告白は、若侍に恐怖しか与えなかった。この女と肉体の交わりが没交渉になるからではない。この女がいつか、「みちのくの受領」にこれまでの関係を偽証し、受領が自分の命を討とうと激昂するのではないかと危惧したのである。
「それならば、俺はいますぐに帰ろう」
底知れぬ恐怖に
振り返ってみると、惜しいのは自らの命だけでなく、女の豊満な肉体。この女が独り身でないのならば、もう易々と抱くことはできない。悔しい気持ちはありながらも、別れを告げるより他はない。しかし女はしがみつく。抱いてくれぬまで放さないといわんばかりの力である。
しかし女を抱いてしまえば、こちらから放しがたくなってしまう。この女が、最後の女でいいと思ってしまう。それは、恐ろしい。色慾に
「ならない。お前を抱くのは恐ろしい」
「なにが恐ろしいのです」
すげなくされる女は、いまにでも飛びかかろうとする気色である。しかし懇願しても受け入れられない。
俺はお前が恐ろしい。お前のためなら危険を冒してでも、ここへ忍び込もうと思えてしまう。この目で己が血を見ることになっても、構わないとさえ考えてしまう。となれば――
「なら、俺と一緒に死のうではないか」
壁に立てかけた太刀を取り大上段に構えると、女が叫び声を上げるより先に、肩から斜めに刃を走らせた。だが、女の口から血の塊が
冷たい藍の空には、判を
その頃、女は生臭い血の塊を口に含み、そこから溢れたものを、暗がりの中にだらだらと垂らしていた。
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