第13話 畜生ダコ、やはり畜生

「どうしたんですか、リーブスさん?」

「あぁ、来たか。いやね、せっかくだから紹介しようと思ってさ」


 リーブスが男性たちの方を右手の甲で指し示しながら一人一人説明を始める。


「こちらの方がコーラル・ロッタさん。ロッタ水族館の館長さん。後ろにいる女性がミレーヌさんで、一番小さい子がサフィーちゃんね」


 リーブスが簡易的に自己紹介を行うと、コーラルが微笑みながら後頭部をさすった。


「紹介してくださりありがとうございます、リーブスさん。短くまとめる技術、とても参考になりますよ」

「ふっふっふっ、もっと褒めてくださってもいいんですよ?」


 リーブスは胸元に手を当てながら鼻の下を伸ばした。リリーシアは後ろで愛想笑いを浮かべながら見つめている。


「さてと。立ち話もなんですし、お食事でもいかがですか? 奢りますよ」

「おぉ~~奢りですか! へへへ、ご馳走になりやすよぉ~~」


 (わぁ、すごいわるいかおしてる。)


 作り笑いでごまする師匠を数秒横目で見てから水槽へ視線をうつす。大小さまざまなケースに入った水中生物を見るたびに、心の底から湧き上がるものがあった。


「――魚、好きなの?」


 リリーシアが声の主に目を向ける。

 そこには先ほど師匠が名前を説明したサフィーがそこにいた。


「うん! すきだよ!」

「そうなんだ。どういうところが好きなの?」

「うーん……しいていうならさかなたちのせいたいこうどうかなぁ」


 リリーシアが短く返答するとサフィーは「へぇ、そうなんだ」と静かに返した。


 (あ、あまりかいわがはずまないなぁ……)


 リリーシアが会話の種に頭を悩ませていると、談笑が聞こえてくる。

 声の方へ視線を向けると、サカズキと書かれた看板が映った。


「ささ、お入りになってください」


 コーラルが扉を抑えている中、リーブスを先頭に中へ入る。

 そこには洋風レストランの様相を呈した空間が広がっていた。


 新鮮な海鮮料理が鼻腔を刺激し、涎を出させようとする。口から洩れそうになるそれを意識的に出さないように気を付けていると給仕が寄ってきた。


「コーラル館長、お疲れ様です。こちらにお越しください」

「……あ、あぁ! そうだな! ささ、こちらへどうぞ!」


 少しタイムラグが発生した後、コーラルは声をかけ歩き始めた。少しばかり皆が進んでいる中、リリーシアは立ち止まり水槽に視線を向けている。


『どうしたんだ、置いていかれるぞ?』

「あ、いや……なんだか……きになるんだよねぇ」


 リリーシアはそういいながら水槽へ近づいた。色鮮やかな珊瑚や機敏に泳ぎ続ける魚が水槽にいる。そんな中に、一つ奇妙な物体があった。白色の卵だ。なぜ水槽に卵があるのか、不思議に思っていると――


 ことり、と動いた。


「あれ……? いま、うごかなかった?」

『何を言ってるんだリリーシア。卵が動くわけないだろ。それともあれか? 脳みそが馬鹿になったせいでそんな妄言でも吐くようになったのか?』

「……いちいちあおらないでよ」

『カーッカッカッカッ!』


 自分勝手に煽り苛立たせてから大声で笑うクラーケンにそんなことを言っていると後ろから袖を引かれた。振り返ると、そこにはサフィーがいた。


「お父さんたちもう向かってるよ?」

「え、あ、あぁ! そうだった!」


 リリーシアは驚いて見せてから焦って走ろうとする。

 サフィーはそんな彼女の右手を掴み、動きを静止させた。


「お料理は逃げないから落ち着いて」

「そ、そうだね……ごめん、あせりすぎた」

「大丈夫大丈夫。そういうことは誰にでもあるよ」


 見た目以上に落ち着いている雰囲気を醸し出すサフィーを見ながら顔を赤らめていると、クラーケンは「カッカッカッ!」といつも通り笑う。


『おぉ~~まるで大人みたいだなぁ。見た目的には同年代なのにまるで年下の様に扱われる気分はどうだい? リリーシア・アルスリス……ちゃん!』


 (かえったら、しおづけしてやる。)


 クラーケン渾身のあおり言葉は、彼女の怒りを買うだけであった。

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