第12話 いざ、ロッタ水族館へ
リリーシアが訓練を初めて一週間が過ぎたころ。
訓練の成果が如実に表れ始めていた。
なんと、触手が出なくなったのだ。
触手三本分の魔力を超えると体に疲労感が伝わるようになったものの、痛みを発生させずに魔法を使えるようになったのは非常に大きかった。
これに関しては魔法の天才であるリーブスもストレートに褒める。
「凄いね、リリーシア!」
「えへへっ、それほどでも!」
リリーシアは誇らしげに胸をはりながらリーブスに「つづきをやりましょう!」と提案する。それを聞いたリーブスは、少し考えるそぶりを見せてから、
「今日は特訓をやめようか」
リーブスの口にした言葉はリリーシアにはあまりにも予想外だった。彼女はリーブスに詰め寄りながら言葉をまくしたてる。
「えっ……? な、なんでですか!? やっとできるようになったのに!」
それに対し、リーブスは平然とした態度で、
「魔法が使えるようになるのは確かに良いことだ。私だってそう思うよ。でもさ、君の最近の生活を居候している立場から見ると、あまりにも海洋から離れすぎてるんじゃないかなと思うんだよね」
「でも……」
「焦りすぎても、ろくなことにならない。それに、第一段階が済んだら一旦違うことを行おうと考えていたんだよ」
リーブスはぐずっているリリーシアの頭の高さまでしゃがんでから、
「だからさ――今日は私と一緒にお出かけに行かないかい?」
「おでかけ……ですか?」
「そうさ。といっても、ただのお出かけじゃない。海洋にかかわる場所さ」
リーブスは立ち上がり少し間を開けてから、
「今日はロッタ水族館へ行こう」と提案した。
その言葉が鼓膜を揺らした直後、彼女の瞳がぱぁっと明るくなった。
「ロ、ロッタすいぞくかんですか!?」
「そうさ。あのロッタ水族館さ」
「い、いきたいですっ!」
「そうかそうか。そんなに反応を示してくれるなんて嬉しいなぁ。それじゃあ、今日は家に戻ってから出発しようか!」
「は、はい!」
リリーシアはリーブスと手を繋ぎながらこれから向かう水族館へ思いを馳せるのだった。
※
アスファルトのような石床が陽光に照らされ輝いている。
規則正しい波音と、潮の匂いが海の近さを実感させた。
そして――目の前に映るのはとても大きな建物。ロッタ水族館だ。
「わぁ! すごいおおきいですね、リーブスさん!」
「そうだね、リリーシア」
『ふんっ、これぐらい普通だろ。むしろ狭いぐらいだ』
リリーシアが嬉しそうに笑い、リーブスが同調し、クラーケンが盛り下げることをいう。そんな風に二人と使い魔レベルの雑魚一匹が会話を交わしていると、水族館前にいたパンフレットを渡すお姉さんと目が合った。
「こちらをどうぞ!」
「ありがとうございますっ!」
リリーシアは元気よくお礼を伝えてからパンフレットの中身を確認する。
ロッタ水族館のマップ情報が緻密に描かれているようだ。リリーシアが目を輝かせながら「すごいひろい……まわりきれるかなぁ?」と弱気になる。リーブスは母っと笑ってから「少し難しいかもねぇ」と言ってみせた。
「セアボトムの課外授業で水族館回るやつあったけど、一日回って二割は見ることが出来なかったからなぁ」
「えっ? リーブスさんってセアボトムかいようまほうかがくがくえんにしょぞくしていたんですか?」
「うん。そうだよ。いってなかったっけ?」
後頭部を擦りながらリーブスが口を開くと、リリーシアは横に頭を振る。
「あ、あの。おかねとか、とりませんよね?」
凄い人に指導されているんだと理解したリリーシアが心配そうにポーチからミツビに貰ったお金を取り出した。
リーブスは「ハハハハッ」と大声で笑ってから、
「とらないとらない! 私が好きで教えてるから!」
両手を用いてお金がいらないとジェスチャーを送る。
リリーシアはびくびくとしながら財布にお金をしまった。
「ちょっとやばいひとかなってすこしおもっててごめんなさい」
唐突にリリーシアが口にした言葉に、リーブスはたじろいだ。
「おぅふ……それは面と向かって言われるとちょっと辛いねぇ」
『カッカッカッ! もっと言ってやれぇ!!』
「クラーケン。お前を調理してやろうか?」
「……すまなかった」
ノリツッコミを含んだやり取りを交わしながら、彼女たちは水族館の中へ入る。受付で支払いを済ませてから回転扉を潜った直後、色鮮やかな珊瑚や海藻、子魚が入った水槽が映る。リリーシアは水槽に駆け寄り、瞳を輝かせながら魚たちの特徴を呟き始める。瞬時に魚の全長や行動習性を口にできるのはまさに天賦の才だ。
『リリーシア。貴様、リーブスに呼ばれているぞ』
「えっ?」
三つ目の水槽の中身をじっくりと確認していた時だ。クラーケンから名指しされた彼女は、体を回してからリーブスの下へ歩いて向かった。到着した時、彼女の視界には二人の男女と一人の少女がうつっていた。
男の方は中肉中背の屈強な体型と短めの茶髪、整ったひげを持つ優しそうな男だ。その後ろにはロングヘアのブロンド髪を持った細身の女性、ボーイッシュな茶髪と子猫の様に丸くて大きな瞳を持ったリリーシアと同年代ぐらいの女の子が立っている。
(あの子、どこかでみた覚えあるなぁ。)
リリーシアは自分の中でそんなことをよぎらせる。いったいどこへ見たことがあるのか思い出せないでいると、クラーケンが面倒くさそうに『チッ』と舌打ちした。
『やっぱり、リーブスは嫌いだわ』
「……?」
そんな言葉に首を傾げつつ、彼女はその場所へと向かっていった。
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