第8話 リーブス・ガレドリア

 太陽が緩やかに沈み始めたころ。

 転移魔法を使った女が科学冊子・酒瓶が転がっている部屋に立っていた。


「ふぅ……久々に転移魔法連発したからちょっと疲れたな」


 少女をベッドに寝かせ、額を拭う。そんな時、扉が乱雑に開けられる。扉の先に立っていた人物は部屋の主だ。女は主を見つめるとにこやかに笑い声をかける。


「やぁ、ナタリー。部屋、借りてるよ!」

「リーブス! またあんた問題ごとを起こしたわね!」


 リーブスはウィンクしながら「いつものことだしいいじゃ~~ん」と返事する。


「由緒あるガレドリア出身の癖に、ほんと突発的ね。知人だからまだいいけれど、赤の他人には絶対やらないほうがいいわよ」

「ハハハ、手厳しいね。まぁ、迷惑料なら弾むからさ。許してよ」

「そう。それより……その子って、シアちゃんじゃないの?」


 ナタリーは先ほどともに仕事していた少女に視線を向けた。服はボロボロとなっており、柔肌がむき出しになった個所からは痛々しい生傷がみられる。


「リーブス。あんたまさかシアちゃんに酷いことやってないよね?」

「人聞きが悪いこと言うなぁ。私がそんなことやるわけないじゃん」

「じゃあ誰がやったのよ?」

「このくそダコ」


 リーブスは怪訝な顔つきで皺が出来たくそダコ・クラーケンを手に取った。


「なにそいつ? 気持ち悪いわね」

「同感だよ。実際、この子供の体から触手生やしてたからね」


 リーブスの発言を聞いたナタリーがクラーケンの顔に一発拳を入れた。くそダコは拳を顔面に食らうと同時に軽い音を鳴らす。顔を真っ赤に染めながら三発入れると、リーブスが止めに入る。


「駄目だよ。こいつにはまだ利用価値がある」

「はぁ!? こんなくそダコ殺した方がいいよ!!」

「私もそう思った。けどね、事情が違うんだよ」


 リーブスはくそダコをローブにしまってからリリーシアを見る。


「この少女は、魔力がないんだ」

「魔力がない……? ってことはまさか」

「そう。彼女は自ら化け物と契約したんだ」


 その発言を聞いたナタリーは動揺する。


「待ってよ! そんな証拠あるの!?」

「君もわかるだろ。それとも、科学分野に進んで衰えたか?」

「……っ!」


 リーブスの煽り言葉を耳にしたナタリーが睨みつける視線を向けてから、リリーシアの下へ向かう。ぼろぼろになった少女の左手をゆっくり触り、魔力確認魔法を詠唱した。


「……本当ね。魔力の痕跡が一つもない。いうなれば、魔法使いになる素質が一つもない女の子よ。でも、なんで彼女が自ら契約したって思ったの?」

「理由は単純。彼女を見つけた場所だよ」

「どこで見つけたの?」

「溺れた子供がいた場所だよ」

「—―!」


 ナタリーが目を丸くしている中、リーブスはローブを整える。


 しばらくの間沈黙が続いた後、リーブスがリリーシアの傷口を治療し始めた。


「魔法が使えないただの少女がさ。力を誇示したり悪いことに使わずに、人助けをするために使用する。普通の子供にはできる事じゃないよ。私はね。そんな少女の心意義に惚れたんだ。だからね――私は宣言するよ」


 リーブスは治療を終えてから、少女の温かな手を握る。

 とくんと鳴らす脈温を感じながら、彼女は想いを口にした。


「彼女が一流の魔法使いになれるよう尽力するってね」

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