第4話「大砲を使えても、戦わせるものか」

「はい? 大砲とは」

 いやとぼけないで!


 小柄な子と比べたら背は高い、それでも平均的な身長なんだよ? だからその拳銃、拳銃? は持っててもいい大きさじゃないんだよ!?


「大砲というのは比喩であってねッア!? き、君も持ってるんだね、ははっ……」


 オレを起こしてくれた小柄な子も、腰のホルスターに同じような大型拳銃入れてる……教育は、どうなってるんだ……


「ハルミ様、どうやら本当に記憶喪失のようですね」

「えぇ、サーティーンなんて誰しもが持っているでしょうに」

「そうですね。あー、もしやウロコムシがいない土地から来たのでは?」

「そんな所があるか分かりませんが……その可能性はあるかもしれませんわね」


 サーティーン、13、13ミリ……? それが必要なウロコムシ? ってなんなんだ……はぁ。


「あー。一周回って冷静になれた、ありがとね」

「どういたしまして」

「皮肉でしょうがありがたくいただきますよ」

「あはは……えぇと、とりあえず自己紹介でもしようか」

 まずは立って……まだめまいが残ってる。なら、せめて背筋を伸ばしてっと。

「座りながら失礼するよ。オレだけど、名前も来歴も分かりません!」

「あ、はい……では私も。スカートははいていませんので」


 緑色のポニテで小柄な子。彼女は苦笑気味だったけど……優雅に一礼する。


「サウスグリーン州ウェスト領、領主イネハルは孫娘、ハルミ・ウェスト・オオイネクラですわ。こちらは従者のナオ・タカハシ」

「ハルミ様の従者、ナオです。今後ともごひいきに」

「…………頭に残っている知識とは、なんか、いろいろ違うけれど。これはご丁寧に」


 そうして三人で頭を下げ合う……この光景、オレたち稲海系の末裔だって絶対。

 まぁ、歴史を知るのは後にして……迫る脅威をなんとかしないと。


「ねぇ。表にいるのは君たちの馬……馬じゃない?」

「どうされましたの急に」

「表にいる子達がピリついてる。あと、遠くから敵意のありそうなナニかが来てる……飛行型の生体兵器かな。んー、虫?」

「なにを言って……っ! 警戒の鳴き声!」


 叫び、緑髪ポニテをしっぽのように揺らして振り返るハルミ。

 遠くで鳥が鳴いている。不安をあおらせる声質はまさしくアラームだ。


「この鳴き方は、蟲……! ナオ行きますわよ!」

「わかりました。えぇと名無しのゴンベエさん、ここで隠れててくださいね!」


 叫ぶが早く、ハルミとナオは駆け出していった。

 その手に銃を、武器を手にしながら……

 ――あの気配と、威圧感……


「戦いを知る人間のそれだった……なんで」


 なんで、子供が戦いを知っているんだ?

 なんで? 子供を戦場に立たせないよう、頑張ったのに。

 なんで、なんでだ? なにをどう頑張ったんだ? なぜ頑張れたんだ! 誰か、誰か教えてくれ……っ


「治療ポッドの、フタ」


 すがる意識が、強化プラスチック製の一枚板を見つけた。

 理性が、見に行くなと叫ぶ。だけど本能が、体を棺桶、治療ポッドから起こし、向かわせ、一枚板をのぞかせる。

 ――少年が映っていた。10代半ばに見える、ヒゲなど生えていない、ほおのコケている……


「おれ、なのか? いや、ちがうっ、違う!」


 何度見ても――無精ひげを伸ばしっぱなしな30手前の男じゃあない!

 戦いばかりの二十代に辟易していて、剃るヒマもなくて無精ひげを爆発させてたんだぞおれ、は……そうだったはず、だった、よな?


「……ふはっ。今の自分が子供にしか見えなくて良かったな。無精ひげの男が、見知らぬ女の子に起こされるなんて犯罪だろ、なぁ?」


 現実逃避をしてみた。けど、顔がもとに戻ることはない。

 いや、もとから子供の顔だった? 今のおれは記憶を失っているから、本当は、ほんとうは――パシン!


「いいかオレ、うじうじ考えてる場合じゃないだろ!」

 頬を叩き、無理やり目を覚ます。あれこれ考えるのは後だ。


「ハルミとナオだったか」


 あの二人は違和感を抱かずに戦場へと向かった、そして戦おうとしている!


「それを見て見ぬふりするなんて、あの人達の顔に泥を塗る行為だ!」

 体の具合を確かめる、足の違和感は薄れてきたからヨシッ。

「使えるはず、何度も頼ってきたから」


 ソレにかぶさるガレキを取り除き、なんでか手に馴染むソレを手にして、オレは駆け出した。

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