GO WASTE!-俺は奴らにとって、怪異の怪異-
第二十一幕『非常に歴史的価値が高く当時の人の心境も見て取れるため状態を保存するべきです-Who’s afraid of the Big Bad Bogy-』
第二十一幕『非常に歴史的価値が高く当時の人の心境も見て取れるため状態を保存するべきです-Who’s afraid of the Big Bad Bogy-』
よく晴れた日差しの強い日、まだ陽の高い時刻、
物色していたと言っても、空き巣や強盗の
「ふひひ、こちらですぜ
そう言って相方の片割れに隠れる様に様子をうかがうのは、長い
「いやな、俺はお前の兄貴になった覚えは無いし、そもそもその『不幸のタンス』とやらが幾億人飲み込んでるっていうなら、人口は今頃大変な事になっているぞ」
茶髪の女性の相方は、一見
「ままま、気にしなさんな。巷で
「しっかしなあ……」
「でも、もう前金もらっちゃったんでしょ?」
「ああ」
「湧いたお金に喜びまくって、後先考えずにアレコレ買い物して、今月ヤバいんでしょ?」
「ああ……」
その様な
筋肉質な青年がタンスを調べるのを、茶髪の女性はおっかなびっくりな様子で、丁度まるで……
「なあなあ、このタンスの中身に『お
筋肉質な青年の質問に茶髪の女性は痛い所を突かれた様に
「えー実は先程二、三
「えい」
「うわッ!?」
筋肉質な青年は茶髪の女性の
「ちょっと待って! あたし
「知らんよ」
そう言いつつも、茶髪の女性は興味心を抑えられ切れない様子で、筋肉質の青年の肩から様子をうかがう様に開けたタンスの段を覗いた。
「朱色の……えっと、
「ああ、妙な触感がするが、パッと見普通の木の箱だな」
そこにあった、青年が手に取ったのは
蒐集家の依頼主が曰くつきの代物のお祓いを頼んで来たのだ、きっとあの堅牢であろう寄木細工をどうにかして開けたら、その中にある呪物があるのだろう。
そもそもの話、依頼主の話が本当だとして、幾億の人間を飲み込む『不幸のタンス』なんて物を部屋に剥き出しにして置いてあるのは病原菌のコロニーを室内に放置する様な事、加えてこの手の怪談では
「ふん!」
筋肉質な青年は、手に持った朱色の寄木細工を握り
「え、待って! 握力で握り
茶髪の女性は、筋肉質な青年の手の内で寄木細工が粉々の
「すまん、なんかこう……指が滑った。あと、今の箱はシロアリかカビにでもやられて中がボロボロだったんじゃないか? 普通、
「ちょっと握るだけなのに、『ふん!』って掛け声を?」
「………………」
「まあいいか、中に何か無かった?」
「いや、何も入ってなかった。入ってたとしても、
筋肉質な青年はそう言って、ごまかす様に利き手を逆手で払い、手についたゴミを落とした。
「まあ、ちょっと触っただけで跡形も無く風化ちゃったなら仕方ないのか? 次は真面目にやってよね! もう前金貰っちゃったんでしょ」
「
「ここはフランスじゃない!」
その様なやり取りをしつつ、筋肉質な青年は気軽にタンスの二段目を開け、茶髪の女性はその様子をおずおずと見ていた。
タンスの二段目には、黒くて細長くて四角い、
「わ、これってあれだ、ビデオテープ! 何が映っているんだろう? これがお祓いして欲しい物?」
「そおい!」
筋肉質な青年は肘をハンマーの要領でビデオテープに打ち付け、タンスの底板ごとビデオテープに打ち付け、タンスの二段目の引き出しはひしゃげてダメになってしまった。
「ゲンジョウ様、何をなさっておいで!?」
「ごめん、なんか上半身が滑った。滑って
「うわあ、もうタンスが
その時、茶髪の女性はある事に気が付いた。先程、確かに目に入った筈のビデオテープが引き出しの中に無い。
あるのは焼け焦げて嫌な臭いを発する
「ねえ、これは何?」
「ビデオテープの中がシロアリの巣になってて、中がボロボロだったんじゃないか?」
「シロアリは木を食べる害虫! どうやったらビデオテープがこうなるの!?」
「じゃあ未知の菌か何かが呪いだなんだと言われてるんだろ」
「………………」
筋肉質な青年は茶髪の女性のペースなど知らずか、或いは知っていてマイペースと言うべきか、タンスの三段目を開けた。
「これ、カツラとお札? うわ、不気味。多分これがお祓いして欲しい物って事?」
「オラァ!」
筋肉質な青年は唐竹割の要領で、タンスを踵落としで両断した。
「何をしたって言うか、それは一体何が出来ているの……?」
「シロアリだ、このタンスは新種のシロアリの巣だった」
「あっはい、そうですか」
茶髪の女性はただただ呆れ果てたが、目の前にはタンスがおが屑の様になってしまっているという
「いやでも、お祓いのバイトであってゴミ処理の仕事じゃないんだけど、これどうしよう……」
「シロアリの巣か何かになってて、触った
「いやいや、現物
「………………」
* * *
二人はただただ肩を落として途方にくれているが、その背後には三つの
三つの人影は少女のそれで、三人は三様に二人に話しかけていた。
(助かりました)
(出してくれてありがとう)
(これで誰も怨まなくて済む)
しかし二人のどちらも三人の人影には気が付かず、ひたすら今後について考えてうなだれるだけであった。
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