第十二幕『邪視-I WATCHING YOU-』
ねえねえ、
目で見ただけで相手を殺しちゃう怪物ってのは多くの文化帯に存在するらしいんだけど、もっと単純に目は力を持っていると考えている
例えばカラス除け。
あれは元々古代ギリシャに由来するって説があってね、何でも巨大な目は魔除けになるって風習があったんだってさ。
害鳥はアレを見ると、巨大な単眼のバケモノが居るって
それで話は邪視に戻るんだけど、ヨーロッパでは害意を持った視線は人を不幸にするって信じられてたらしいの。
害意と言っても、事故に
だからね……邪視って呼ばれる怪物って、人間の事を傷つけたり食い物にしたいと考えているのかも知れないけど、実は逆に羨ましいとか、仲良くしたいって考えているんじゃないのかな?
* * *
深夜、山のキャンプ場での出来事だった。
そのキャンプ場は草が伸び放題、看板は赤く
何でもこのキャンプ場は人から忘れ去られかけていたのだが、出ると
世論は『自殺者を茶化し
そんなこんなで
テントの中に一人の青年が
一見
「…………。」
青年が眠っていると、何かが聞こえた。しかし青年はそれを気にするでもなく、風の音か何かだと思って無視した。
何せベッドで眠っていると、人間は存在しない視線を感じたりするものなのだ。
彼は怖がるでもなく、気にするでもなく、全く気にならずに眠っていた。
「…ぇ……。」
再び何か聞こえたが、青年は風か動物か、とにかく再現性のある自然な音だと思って気にしなかった。
再び聞こえた音を無視しつつ、青年は便意を覚えて起き上がった。
このキャンプ場は山の中にあったが、トイレも手洗い場もあった。車道もすぐ脇にあり、
テントの外はじんわりと汗が
青年はその様子を見て、簡易ライトと登山用の杖とを手にトイレのある方へ向かった。
ついでに不快指数の高い蒸し暑さを覚え、
キャンプ場は人が寝入っているか人が少ないか、とにかく静まり返っていたが、この自動販売機やトイレの周辺は全く利用者の気配が感じられなかった。
まるで、このキャンプ場には他の利用者が全く居ない様にすら感じられた。
「…ぇ…ょ。」
三度音が聞こえた。
青年の耳に音は届き、この音は気のせいでも錯覚でもない事が理解出来た。
しかし青年は全く気にせず、トイレの個室へ向かった。
青年はトイレの個室を
「みぇ…ょ。」
四度音が聞こえた。
しかし青年は
青年がすっかり
「みてぅょ。」
割とはっきりとした
しかし青年はトイレットペーパーを引っ張るカラカラと言う金属音を立てたために
天井には人間の眼球の様な物が生えていた。
眼球の様な物と表現したのは、それが裸の眼球一つで存在しており、そして人間の眼球らしい
「みてるよ」
今度と言う今度は、完全にはっきりとした声として聞こえた。
そしてトイレの個室
の壁と言う壁に、壁が
「「「「「みてるよ」」」」」
丁度尻を拭き終わってズボンを
「■■■■っ!?」
青年の手には
青年はこれを物ともせず、トイレの個室の施錠を開けて外に出ようとしたが、戸が開かない。
建て付けが悪いと言う風でもなく、まるで
「お前らか! お前らのせいか!」
青年は戸に立てかけておいた登山用の杖を手に取ると、眼前の戸に映えている眼球を滅茶苦茶に、しかしそれでいて適確に突いては殴り、
「「「「「■■■■■ッ!」」」」」
「うるせえ! 目ン玉が叫び声を挙げるんじゃねえっ! どうやって叫んでいるんだっ! ふざけんじゃねえ! 舐めたマネをしやがって!」
青年は閉じ込められたために目を殴り、
これには眼球のバケモノもこれは
「俺の事をずーーーっと付け
青年はそう言うと、登山用の杖を逆手で漁師の
「み゛い゛い゛い゛い゛!」
個室内に
「これでも喰らいな、妖怪野郎」
青年はそう言うと、背負い袋の中からレモンソーダを取り出し、
「み゛い゛え゛え゛う゛う゛う゛お゛お゛お゛!」
殴られ、蹴られ、突っつかれて、突き刺され、踏まれ、トドメと言わんばかりにレモンソーダをかけられた眼球のバケモノは、けたたましい叫び声を挙げながらトイレの地面に溶けていった。
「そのキャンプ場には悪い妖怪が居て、その妖怪に取り
午後の食堂に二人の学生が居た。片方は長い茶髪が目に映えるスレンダーでどこかサルの様な印象を覚える軽快な
「ふーん、自殺したくなる様な妖怪ねえ……確かに仏門の坊さんが呪文で妖怪を
筋肉質な青年は不思議に思う様な、面白がった様な様子で軽快な雰囲気の女性に返した。それに対し、女性の方は不平を言う様な、同じく面白がった様な様子で返す。
「いや知らんし。あたしは
「お前なあ……いやまあ、どこの誰が言い出した事です! って、そのものズバリを正確には言えないだろうけど……」
「ふふん! とにかく、悪い妖怪はお坊さんに懲こらしめられて、もう二度と悪い事をしませんでした。めでたし、めでたし」
軽快な雰囲気の女性は満足そうに語り終えて、帽子代わりに金色のカチューシャを頭から外して小さく礼をした。
「へえー……これが西遊記なら、むしろここから話が始まるって感じだな」
「まあね、でもでも、やっぱりこのお話はここでお終いらしいよ。何せあたしが聞いた話は、ここでお終いだから。ところでゲンジョウの
「さあ知らないな。家に
「へえ、そっか。じゃあさっきの話に合わせるなら、悪い妖怪はお坊さんが
軽快な雰囲気の女性は、面白がった様子でそう言った。
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