第十一幕『今お前は怖いと思ったな?-I C U-』
覚に関する話は
覚は元々中国から来た妖怪だと言うパターン、覚は無害な妖怪で自分を害する人間の前に現れないと言うパターン、そして一つのパターンに覚は人間を恐怖で動けなくして捕食する妖怪だと言う物がある。
そのパターンでは、覚に
そのエピソードでは覚は
さて、ここで一つの疑問が生じる。言葉で恐怖を覚えさせて捕食する動物と言う存在は、自然界に許容されるのだろうか?
言葉で恐怖させると言う生態ならば、被食者は人間に限定される。例えばウサギか何かに「今お前は怖いなと思ったな?」と語りかけても、
蛇の様に一度食事をしたら相当な時間を断食できる動物だと仮定しても、一人で居る人間に獲物が限定する様な動物が山に生息していると言うのは理解し
この話題に関してだが、覚は
なるほど純粋な生物でなく、人間を捕食する生体の動物でないと考えれば
しかしもっと簡単でメジャーな
妖怪は人間の恐怖心から生じる存在で、人間を怖がらせて楽しんでいると言う解釈である。
これならば、覚に喰われた事が死因だと言う被害者が存在しない事も説明が付くし、何よりこの説は有力説なのである。
あなたも一人で暗がりに居るところを「今お前は怖いなと思ったな?」と後方から話しかけられたら怖いと感じるだろう。妖怪とはその様なものなのだ。
* * *
「今お前は怖いなと思ったな?」
深夜の暗い
人間は俺を見ると
「今お前はグズグズしていると取って喰われると思ったな?」
俺がそう口にすると、人間は増々怖がった。
もう顔面は蒼白な上にクシャクシャに丸めた紙の様で、もう俺は面白おかしくて
「今度は逃げるだけ逃げようと思ったな?」
俺が追い打ちをかける様そう言うと、目の前の人間は腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった。
「今お前は
その言葉がトドメになり、目の前の人間は両目を強く閉じて
全身が細かに震えている事を除けば、人間大の像と言っても通用しそうな有様だ。
俺は震えて目を閉じ動けなくなった人間を見て大変満足し、この場を去った。
あの人間は一生俺と言う恐怖に
それこそ俺の幸せ、俺の存在意義!
俺は一人で居る人間が他にも居ないか探し回ったところ、幸運にもすぐ
「今お前は怖いなと思ったな?」
二人目の獲物の目の間に立って、俺はそう言った。
すると人間は俺に殴りかかろうと考え、実行して来た。
全く無駄な事だ。俺には人間の考えが読める、一挙一動を本人より先に知覚できる、無意識の
事実、俺は人間の攻撃を容易に
人間は
それも生意気にも俺を追い払う目的でなく、拳や蹴りを俺の肉体にめり込ませて地に
無論俺には人間の蹴りなど万に一つも命中しない。
しかしこの人間はそれでも懲りずに頭の中で俺の鼻を殴り折る、腹部に
いや待て、俺は一体何をされようとしているんだ?
人間は俺の獲物であって、考えを一つや二つ言い当てたら心を
何故俺はこの人間の頭の中で何度も何度も殴られたり蹴られたりしていて、その様を見る
だがしかしこの人間は危険だ、今ここでコイツの考えを読むのを止めたら、それこそコイツが考えている様に死ぬ程殴られてしまう!
『飛び蹴りで妖怪の頭部を蹴り飛ばして、妖怪が地に伏して動けなくしてやる』
『フェイントの後、両腕を振りかぶって頭部を叩きつけたら妖怪は倒れて動けなくなる』
『妖怪が飛びのいたところに、奴の顎にラリアットを食らわせて
『顔面にストレートを喰らわせて上顎の歯を全部へし折ってやる』
『腕を掴んで胴体に蹴りを入れ、脱臼するまで痛めつけてやる』
『ちょっとでも
『殴って蹴って
「ふざけるな! なんて事を考えているんだ!? お前の様な人間は初めてだ、逃げさせてもらう!」
俺はどうしようも無い恐怖を覚え、背を向けて一目散に逃げ出した。全く、世の中には想像もできない様な恐ろしい生物が居るものだ。
あの人間は一生俺の恐怖になって怯えさせ、俺は体感した恐怖をあちこちで喧伝して回る事になりそうだ。
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