8 天界編

第83話 領地でのスローライフを満喫

 さて、大陸の情勢は概ね落ち着いた。大陸の東半分は皇帝によって治められた。以前とは違い、強面の皇帝はだいぶ後退して、笑顔の皇帝が前面に出てきたので、臣民も笑顔が増えた。


 かといっても、引き締める時はしっかりと引き締めるので、国が緩んで乱れるということはない。何しろ、帝国軍は精強だからね。


 宗教的にも教会は一つに統一された。教会そのものが物質的にゆとりがもてるようになったので、ミサ一つとっても、やはり笑顔の多いものになった。物質と精神のバランスというのは大切なのである。


 僕の領地では僕がいなくてもしっかりと回せていける体制になっていた。帝国の領地とはなったとはいえ、実質的に自治領みたいなもので、しかも、帝国でも有数の富裕な領となっていた。



「なあ、ロレンツォ。私と結婚せーへんか?」


 マリアが突然言い出した。

 ウェディングドレス着たい願望が再燃したのか?


「冗談言うなよ。僕、年増いや」


「あのな、私も結婚したくないけどな、セリア結婚してもたやろ。フィナもや。そしたら、スィーツ作ってくれるのってロレンツォしかおらんねん」


「村の女性ならみんな作れるでしょ?」


「そやけどな、新作考えるのはロレンツォが一番やろ?ごっつ、楽しみやねん。そのロレンツォまで結婚してもたら、誰が私のためにスィーツつくってくれるん?」


 思いっきり脱力。


「あんね、マリア。結婚って、愛情が一番でしょ?」


「当たり前やん。私のスィーツへの愛情はゆるぎの無いものや」


「マリアさ、君は一応無茶苦茶モテるでしょ?金持ちでハンサムで君を大切にしてくれそうな人、すぐに探せると思うけど」


「せやろか?スィーツ作りの上手い人やで?」


「上等な料理人を雇えば済むことでしょ。皇帝か教会に頼んでみよか?」


「うーん、やっぱやめとくわ。なんか、私、大事なこと忘れているような気がすんねん」


 マリアは、本当に何か大切なことを忘れているような気がするのだが、それが何なのか思い出せない。とりあえず、ロレンツォの新作スィーツを食べて昼寝するのであった。



 僕はというと、特別やることもなくなっている。

 仕事はみんなに割り振っているからだ。


 それで、川用の高速艇を改造して遠海でもいけるようにした。時速50kmの高速艇である。


「僕はちょっと船旅でゆっくりするつもりだけど、マリアもどう?気分転換に」


「私もついてくわ。暇やし」



 ロレンツォとマリアは船旅に出た。空を飛んでいかないのは、長距離だからだ。さすがのロレンツォでも、飛行魔法は500km程度が限界だ。


 高速艇はティオルマー島の港に係留しておいたのを使う。そこまでは転移魔法で一気だ。


 本によると、この世界では、海をどんどん進むと海の果てに達する。そこでは、急激に海水が地の底へなだれ込んでいる。


 僕はそれをこの目で見たかった。その先に何があるのか確かめたかったのだ。片道2日、約2000kmの距離の航海でそこまでたどり着けるのか。


 長期に渡って村を留守にするのははばかれた。往復4日なら留守にしても大丈夫、というフィナの言葉に甘えたのだ。



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